最初の量子「ショートレポート」に耐える 2.

by David Shaw, Doug Finke, and André M. König



新しい技術には課題がつきもの、あなたは何を望みますか?


 イオントラップ型の技術は、デジタルの世界に慣れた人たちにとっては、かなり異質な技術です。


 本当にそのデバイスは32量子ビットなのですか?

 これはとても素朴な質問に聞こえるかもしれません。しかし、イオンをトラップする技術の性質が、その答えをぼやかしています。量子ビットはイオンの一つ一つであり、一般的にそれをトラップするには、可変数のイオンをロードすることが可能です。量子ビットの一つは、計算で積極的な役割を果たし、他の量子ビットは補助的な役割を果たすのかもしれません。そこで重要となるのは、対象となるアルゴリズムで、実際に使用可能な量子ビットの数がどのくらいあるかということです。 IonQの次世代デバイスは,独立したベンチマークテスト[19]で2021年に成功し,最大約21量子ビットで正常に動作したようです(ただし,IonQが設定した32Qと4M QVという積極的なターゲットでは明らかに動作していませんでした)。


 イオントラップ型量子コンピュータは、様々な点で我々をがっかりさせてます。従来のコンピュータに比べると、ゲート速度が非常に遅く設定されています。ポイントは、量子コンピュータを使えば、指数関数的に少ない処理ステップで完結するアルゴリズムが使えるようになるということでしょう。しかしまた、イオントラップ型のゲート速度は、他の量子プラットフォームと比較しても遅い設定です。本当の意味での比較が難しいのは、その判断はもっと微妙なのだということです。本当に重要なのは、どのプラットフォームが、スケール、忠実度、スピードに関して、望ましい組み合わせを実現できるか、そしてその過程で誤り訂正に関連するオーバーヘッドをいかに抑えることができるかなのです[25]。


外部委託に関して -

 イオントラップ型を推進するプレイヤーが、トラップや真空システムの制作を外部委託することは、それほど問題ではありません。ベーシックなトラップ技術は、今では比較的標準的な部品となっています。このような機械のセットアップで本当に難しいのは、レーザーシステムと制御ロジックです。ここまでの商業的なプレーヤーは、研究所の他の進んだデバイスで達成されたセクタートップの2Qゲート忠実度を、まだ完全に再現していません。トラップの設計と製造は、小型化とモジュール化という他のスケーリング上の課題に対応するための技術革新が進むにつれて、より注目されるようになるでしょう。


小型化 -

 従来のイオンをトラップする装置では、ゲート制御が重要な課題でした。ゲートの駆動にレーザーを使用していたため、小型化が難しかったのです。AQTはすでに、ラック・ベースのイオントラップ型のシステムを持っていますが、彼らが使用しているのは、光学式トラップドイオン量子ビットです。[26]。これは、あまり難しい設定を必要としません。他の装置では、超微細トラップドイオン量子ビットを使用しており、原理的に寿命が長いため、高い忠実度を得ることができますが、特殊なレーザーのセットアップが必要なため、その作業は難しくなります。真の大規模なイオントラップ型システムには、おそらく統合されたフォトニック・ソリューションが必要です(レーザーにこだわるなら、代わりにマイクロ波でイオントラップを制御する方法を研究している人もいます[10], [27])。ここまでのフォトニック・プラットフォームは、必要な波長でうまく機能しないため、現在ではまだ初期段階にあります[28]。 革新的なソリューションが生まれつつあります。


モジュール化 -

 もう一つの重要なスケーリングの課題、それはモジュールをどのように相互接続するかということ。トラップドイオン推進派は、しばしばフォトニック・インターコネクトを指摘するのですが、これは、言われている以上に難しいことなのです。現在、最もよく示されている忠実度とスピードは、まだ十分なものではありません。ここでもまた、革新的なソリューションが生まれようとしています。


 イオントラップ型のアプローチは、より優れた量子技術が先に実用の一線を越えることができないかどうか、賭けのようなものです。IonQは、スケーリングの課題に対応するために、イノベーションを起こさなければなりません。SPACのプラス面は、このプロセスを推進するために、5億ドルという潤沢な現金があることでしょう。そして、彼らはアイデアを持っています。問題は、忠実度、小型化、モジュール化といった複数の課題を一度に解決するために、どのプレーヤーがどれだけ迅速に動けるかでしょう。


 ロードマップの約束には細心の注意を払う必要があります。公開株のアナリストは、ロードマップの変化や見直しには厳しくなります。研究開発段階の企業の多くは、非公開を選択します。秘密でいることを選択する企業もあります。



量子的な企業文化への挑戦


 昔のように、徹夜すればピザが食べられて配達してもらえるようなソフトウェアベンチャーではありません。物理学者、エンジニア、コンピュータサイエンティストの技術を結集して、長期的な取り組みが必要です。現実の世界では、マーケティングのセンスや商業的なスキルも同様に重要な要素になるでしょう。大きな不確実性の中で、このような不可解な要素を組み合わせること、創業者と新しいシニア人材を混ぜること、現実的な共通の会社の物語(と現実的な給与の期待)の周りに従業員を留めることなどは、この分野の多くの人が直面する課題でしょう。


 SPACのプロセスにあるプレッシャーやダイナミズム、これには全員が参加できるものではないでしょう。シニアの社員が入れ替わり立ち替わりで入ってくるのは、決して良いことではありません。


学術界の創業者は、特別な問題に直面する -

 通常投資家は、伝統的に創業者が新規事業に完全にコミットすることを求めています。しかし、量子業界では別の考慮事項があります。多くの人は、人材パイプラインが重要な問題になると予想しています。たとえば出身校とのつながりを保つことで、自然な形で人材確保ができるでしょう。また、政府による地域量子セクターへの支援プログラムなども大事になるかもしれません。さらには、大学や企業の研究所チームから最高のものを引き出すことも、プレッシャーになっていきます。それぞれ対照的な強みを持ち、かつ異なる文化を持っている可能性が高いのです。


(この記事を書くにあたり、IonQの創業者であるChris Monroe氏とJungsang Kim氏の元同僚で、現在は商売敵である物理学者2人が弁護に回っていることが印象的でした。)



風の中に立つ


 世界経済が不安定で、先進国の金利は上昇傾向にあり、インフレが蔓延しているなど、量子テクノロジーに投資する既存・潜在投資家は、すでに多くの困難に直面しています。 いったい投資家は、どこに投資すればいいのでしょうか。革新的なベンチャー企業への投資は、ポートフォリオに無相関のエクスポージャをもたらす重要な場となっています。


 まず、どの企業にも問題があることを指摘しておきます。あるときはエンジニアリングプログラムのスケジュールがずれてしまった、またあるときは経営陣の意見の相違、顧客の不満などが原因となることもあるでしょうし原因は様々です。ある企業を見て、その問題点だけを取り上げた報告書を書くことは、難しいことではないでしょう。しかし、悪いことばかりに目を向けて、良いことに全く触れない報告書は、正確なイメージを与えることはできません。また、現在抱えている問題が、いつまでも続くと考えるのも間違いです。改めて、株価を下げて利益を上げるようなレポートを書くことだけが目的であれば、問題が一時的である可能性を指摘しても、言及されることはないはずです。


 私たちは、量子技術がいかに早く価値を付加できるかを非現実的な肯定イメージで表現する誇大広告を軽蔑します。また同様に、非現実的な否定的イメージを描くための散弾銃による中傷(アンチ・ハイプ)も軽蔑します。どちらも業界や社会にとって有益ではありません。どちらも投資家を混乱させます。


 量子コンピュータは開発の初期段階にあり、企業が優れているかどうかの最終的な証明は、その企業がロードマップを実現し、競争力を持てるかどうかで決まるのではないでしょうか。


 現段階では、量子技術に取り組んでいる企業のうち、どの企業が飛躍するのか、誰も断言することはできません。加納なのは、技術、市場のバリューチェーン、現実の企業文化を理解した有能なチームを招き、入念なデューデリジェンス(企業に対する専門家が行う調査)を行うことです。技術に詳しい人がおらず、偏った動機を持っているヘッジファンドは、この説明に当てはまらないと考えています。


 金融市場におけるSPACマニアはいずれ終焉を迎える(そして、そのようなビークルはより徹底的に規制されることになるだろう)と多くの人が考えています[30]。企業は上場に至る道筋、SPACやIPOだけでなく、株式市場で生きていくために必要なマイルストーンについても考える必要があるでしょう。ベンチャー投資家は、いつかは事業が軌道に乗るような計画を期待しているですから。


 量子コンピュータは、これから何年もかかる長いマラソンのようなものです。 量子テクノロジー分野では、さらに幅広い機会が提供されることでしょう。ビジネス・アダプターは即断を避け、商業的価値を提供する競争力のある製品を市場に投入することができる企業との取引を行うべきです。政府は、革新的なプロセスの創造的破壊(過去からの脱却)を奨励すべきです。投資家は、自分が見つけることのできる最良のアドバイスを吟味し、選択する必要があるでしょう。そしてIonQは、Scorpion Capitalの批判が攻撃的な財務的ポーズに過ぎないことを証明しなければなりません。



References


[24] S. Mallapaty, ‘China’s five-year plan focuses on scientific self-reliance’, Nature, vol. 591, no. 7850, pp. 353–354, Mar. 2021, doi: 10.1038/d41586-021-00638-3.


[25] M. Webber, V. Elfving, S. Weidt, and W. K. Hensinger, ‘The Impact of Hardware Specifications on Reaching Quantum Advantage in the Fault Tolerant Regime’, arXiv:2108.12371 [quant-ph], Sep. 2021, Accessed: Sep. 30, 2021. [Online]. Available: http://arxiv.org/abs/2108.12371


[26] I. Pogorelov et al., ‘A compact ion-trap quantum computing demonstrator’, PRX Quantum, vol. 2, no. 2, p. 020343, Jun. 2021, doi: 10.1103/PRXQuantum.2.020343.


[27] B. Lekitsch et al., ‘Blueprint for a microwave trapped ion quantum computer’, Science Advances, vol. 3, no. 2, p. e1601540, Feb. 2017, doi: 10.1126/sciadv.1601540.


[28] D. Awschalom et al., ‘Development of Quantum InterConnects for Next-Generation Information Technologies’, PRX Quantum, vol. 2, no. 1, p. 017002, Feb. 2021, doi: 10.1103/PRXQuantum.2.017002.


[29] L. J. Stephenson et al., ‘High-rate, high-fidelity entanglement of qubits across an elementary quantum network’, Phys. Rev. Lett., vol. 124, no. 11, p. 110501, Mar. 2020, doi: 10.1103/PhysRevLett.124.110501.


[30] B. Masters, ‘New reforms should stop failing Spacs in their tracks’, Financial Times, Apr. 04, 2022. Accessed: May 07, 2022. [Online]. Available: https://www.ft.com/content/e38125db-caa6-40ce-b16e-1dc0745e1b48



(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report




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