コラム:半導体量子コンピュータの幕開け

半導体産業は現在活況に沸いています。世界中で半導体不足&IoTや電気自動車の高度化、スマートフォン、メタバースなど半導体なしでは今後の世界でやっていくのは難しい状況になっています。


そんななか、量子コンピュータの第4の方式として注目されていたシリコン半導体量子ビットがついに、市場投入できそうな雰囲気になってきたというのは以前いろいろな記事として公開していました。


インタビュー:国産の新型半導体量子コンピュータ試作プロジェクトのOpen Silicon Quantumとは?

https://www.quantumbusinessmagazine.com/post/silicon


コラム:2022年の展望 量子ハードウェア ⑨ 中性原子 シリコンスピン ダイヤモンド Cat qubits

https://www.quantumbusinessmagazine.com/post/2022outlook-9


レポート:SEMICON Japan 2021でみたシリコンへの投資を取り込む新型シリコン量子コンピュータ

https://www.quantumbusinessmagazine.com/post/semicon


今回、日本でも話題になっているのが、上記半導体量子ビットの動作で、一部ブレイクスルーがあり、産業化が大きく進むこととなりました。そのあたり産業化について概観したいと思います。


2022年の初頭に、natureにシリコン半導体量子コンピュータ関連の論文が3報同時にでました。そのうちの一つで日本からも出ています。


Fast universal quantum gate above the fault-tolerance threshold in silicon

https://www.nature.com/articles/s41586-021-04182-y


NISQから誤り訂正へ

半導体量子コンピュータは、超伝導方式、イオントラップ方式、冷却原子方式などと並んで汎用型量子ゲート量子コンピュータとなっています。基本的には量子ゲートと呼ばれる操作を量子回路として設計し、それを時間で動作させます。今回の発表では、以前は難しかった2量子ビットゲートと呼ばれる量子ビット同士の計算について、一定の基準を超えた性能が出せたということです。これにより、半導体量子コンピュータは現実的に現在の産業用、ビジネス用の量子コンピュータとして市場投入が可能なところに来ました。


2020年より以前はGoogle社とIBM社による量子コンピュータの開発が過熱していました。その当時はNISQと呼ばれるエラーありの量子コンピュータがメインでした。その際には既存のコンピュータと直列でつないで計算する量子古典ハイブリッド計算が主流でしたが、22020年以降はそれら量子古典ハイブリッド計算については性能がでないということで、量子コンピュータ単体での計算を行う必要があるという認識になり、世界中で誤り訂正付き量子コンピュータと呼ばれる、エラーの少ない量子コンピュータの開発にシフトし、各社ロードマップを大幅変更したという経緯があります。


半導体量子コンピュータでも誤り訂正できそう

エラーの少ない量子コンピュータを作るには、誤り訂正と呼ばれる、エラーを補正しながら計算する手法が必要ですが、元の計算の精度が99%以上でないとエラーがエラーを誘発してしまい、計算ができなくなるということもあり、99%以上の精度を確保する必要があります。半導体量子コンピュータはこれまで一部の操作において99%を超えることがなかったのですが、今回99.5%以上の精度を欠くほどしたことにより、産業向けに誤り訂正量子コンピュータを作ることができるということが確認されたためニュースになっています。


半導体量子コンピュータが期待される理由は?

先行している超伝導やイオントラップ方式には大きな量子コンピュータの産業化課題があり、それが量子ビットを増やすということです。現在、超伝導ではIBMから127量子ビットのマシンは発表されていますが、性能指標を示す量子体積の基準で考えると32となっており、これはIBMが提供する量子コンピュータの中でも特に性能が低くなっています。量子ビットを増やすというのはかなり難しく、IonQもHoneywellも同様の課題にぶつかっています。一方最近では、冷却原子と呼ばれる第三の方式が米国と欧州で登場しており、こちらは量子ビットが100-1000量子ビット単位での搭載ということで量子ビット数競争が起きています。


半導体方式は量子ビット数を増やすのが可能といわれており、既存の半導体製造設備を使います。そのため、5nmプロセスなどの最先端プロセスを使って量子コンピュータを製造することができ、数百量子ビットなどの集積化が可能といわれています。現在のほかの方式はそもそも産業に載っておらず、試作という形で研究室のようなところでの設置となっていることが多く、長年培われてきた産業スペックの半導体製造設備を使ってつくることのできる半導体量子ビットは産業クオリティとしても量産化が最初から期待されています。


一方で、産業化に載るということは収益化が期待されており、半導体プロセスを使って量産化するためには多くの準備と予算がかかります。そのため、量子コンピュータの実用化と応用先、そして何よりも購入先が必要となります。現在は超伝導やイオントラップ、これからでる冷却原子、そして別方式の光量子と方式がばらけており、応用先もまだよくわかっていないということもあり、多額の費用をかけて半導体の製造ラインを確保するほどの量産化段階にありません。


現在は、ほかの量子コンピュータの方式が着々と築き上げている検討やソフトウェア探索が充実し、成熟するのを待ち、そのタイミングで産業スペックの量子コンピュータを製造すべく、シリコン量子コンピュータの実用化は2024-2027年程度がみこまれています。まだソフトウェアの応用先は明確にはわかっていませんが、材料計算や社会問題、機械学習AI分野への応用などが期待されています。


小型化が可能

半導体量子コンピュータは、基本的には冷やす必要があります。国内では筑波の産総研が10Kでの動作に成功していますが、-271度から-263度の間くらいの温度で動作します。超伝導の20mKや10mKなどと比べると要件がかなり緩和されており、冷凍機はデスクトップサイズまで落とすことが可能です。


実際に現在世界では数社デスクトップサイズのシリコン半導体量子コンピュータの製品化に向けて動き出しており、弊社blueqatも開発をしています。冷凍機から開発をしていますが、小型化が可能ですので、デスクトップ型、サーバーラック型などの産業向け量子コンピュータの開発が加速されると予想されます。


ほかの方式としてはイオントラップや光量子方式が小型のデスクトップサイズを開発しており、小型量子コンピュータの開発競争もますます過熱しそうです。日本でも国際宇宙ステーション向けの小型冷凍機技術などがありますので、量子コンピュータの小型化についてはかなりのアドバンテージがあると思われます。


必要な新規開発

半導体量子コンピュータもそのままでは性能を伸ばすことはできず、既存の半導体に加えて新規の追加開発も必要です。半導体量子コンピュータは電子を半導体チップ上に三次元で閉じ込め、そこに磁場をかけることで0と1の計算を実現します。また、さらにそこに磁場をかけて計算操作を行います。磁場をかけるため磁石が必要になります。また、電子のスピンを利用するためウェハもスピンに影響を与えないような同位体ウェハが必要となります。電子を操作するためにも、現在の半導体技術を改造したほうがより性能がでます。


量産化に向けて

半導体量子ビットの量産化に向けての検討はすでに始まっています。100万量子ビット単位での量子ビットの作成となると配線問題がでます。1量子ビットに対して2本の配線が必要となると、実質的に最初から不可能となってしまします。これらの技術を解決するのがSoCとクライオCMOSという、量子コンピュータのチップに付随する普通のチップ技術です。半導体量子コンピュータは半導体を使っているので、ワンチップ上に普通の半導体を載せることができます。ですので、制御系・読み出し系は普通のチップを使いますが、同じチップ上に同じように統合することができ、効率的です。量産化に向けては小型化、ワンチップ化、制御用チップの開発などが統合されて行われる必要があり、イギリスでは国のプロジェクトとして主導され、EDA(電子設計自動化)ツール大手のSynopsysなども参加していて大きく発展をしています。半導体産業に載るということは、本格的な量産化が進み始めているということを示しています。現在半導体業界も次世代の計算素子について半導体量子コンピュータへの参入が相次いでおり、一大産業を形成し始めています。


半導体量子コンピュータ業界では、量子コンピュータへの参入は半導体産業への参入を意味します。ぜひ大局的に半導体をとらえ、量子コンピュータへの計算をシームレスに導入できるような体制や学習を進めていきたいですね。ぜひ期待しましょう!以上です。