コラム:SandboxAQのプロダクト戦略

先週、AlphabetからSandboxグループがスピンオフしたことを取り上げた。プレスリリースにはこうあった。AIと量子の技術を組み合わせることで、従来の技術では到達できなかったユーザーが抱える課題を解決すると。まずはっきりさせておきたい。このグループは、拠点をサンタバーバラ/ベニスビーチに置き、超伝導量子プロセッサのハードウェア開発を進めるGoogle Quantum AIのチームとは別物だということだ。そのチームはGoogleに残っているのだから。


SandboxAQのCEOであるJack Hidary氏に話を聞く機会を得た。同社の近い将来の製品フォーカスや活動について、詳しく見解を示してくれた。


まず、彼らが取り組んでいるのは、ポスト量子暗号(PQC)と、サイバーセキュリティの分野である。伝えているように、まもなくNISTから公開鍵暗号に使用するRound3 PQCアルゴリズムの標準化選定が発表されるだろう。標準化は、現在のデジタルインフラで公開鍵暗号に使用されているRSAや、その他のアルゴリズムに代わり、将来の暗号鍵交換に使用することが目的だ。


発表後は、現在デジタル通信に公開鍵暗号を使用している数十億台のデバイスを、大型量子コンピュータからの復号攻撃に対し、安全なデバイスにアップグレードまたは交換する、Y2Qとも呼ばれる大規模な取り組みの幕開けとなると予測できる。このY2Qの取り組みには、おおよそ10〜20年かかり、企業はそのために何十億ドルもの資金を費やすことになるだろう。実際、セキュリティ関連の支出は数十億ドル単位で計測されるが、この10年間、企業は量子アプリケーションの開発よりも、デジタル通信インフラへの量子耐性技術(PQC+QKD)の導入にこそ、多くの資金が必要であろうと考えている。


ここでSandboxAQの登場となる。この暗号コードのアップグレード実装は、かなり大規模なものになるだろう。アルゴリズムの修正箇所をすべて見つけ出し、修正することは困難を極めることが予想される。20年も前に退社した開発者によって書かれたかもしれないコードをアップグレードする必要があるからだ。


SandboxAQは何を開発したのか?企業は、暗号ソフトウェアを量子セキュアなソリューション(PQC)にアップグレードしなければいけない。その時、AIベースのディスカバリーエンジンで、アップグレードする必要のある箇所を全て見つけ出してくれるのだ。その後、NISTが承認するPQCアルゴリズムへの返還を支援してくれるという。移行支援のため、この市場をターゲットにしている企業は他にもいくつかある。しかし、他の企業は、アップグレードが必要な箇所を見つけてくれる高度なAI発見エンジンを持っているだろうか。


他にも彼らには秘密兵器がある。それは彼らの顧問団だ。最初に彼らの顧問リストを見た時にすぐに気が付いた。他の量子スタートアップに見られるような、著名な量子コンピューティングの専門家がいないことに。ではどのような人がいたのか? Eric Schmidt氏や Marc Benioff氏など、古典的なエンタープライズコンピューティングに深い経験を持ち、この種の取り組みに対してエンタープライズSaaS企業の経営に有益な指針を与えてくれる人達がならんでいたのだ。


さらに、PQCのアップグレードを経て、SandboxAQには、サイバーセキュリティに関する新たなチャンスが訪れるだろう。暗号アルゴリズムのアップデートは、企業にとってインフラ全体のアップデートの機会となるかもしれない。レガシーを、より近代的で保守性の高いソフトウェアやハードウェアにアップグレードする時期と判断すべき状況だ。量子技術は特に必要ないかもしれない。しかし、AIが必要になる可能性が高く、同社にとってさらなるAIのソリューション展開が開けるのではないか。


SandboxAQが取り組んでいるもう一つの分析は、AIで強化された量子センサーだ。特に重点をおいているのは、PNT(Position、Navigation、Timing)の分野である。軍はGPSの補強や代替を求めている。GPSが使えない場所でも部隊の位置を把握するためだ。この機能は民間市場でも重要だろう。トンネル、高層ビル、その他の干渉により、GPS信号が遮断される可能性のある自立走行車などのように。量子センサーは、磁気センサーなどの感度をはるかに向上させることができる。さらに、センサーの出力を、AIによるデータ解釈でより強力なものになるかもしれない。SandboxAQのこの取り組みは、現在研究開発中なので、PQCの提供の後に行われる予定となっている。


同社は、自分たちをB2BのエンタープライズSaaS企業として位置付けている。これは、B2Cモデルを主としているAlphabetとは対照的だ。両者は、ターゲット顧客、販売チャネル、そして企業文化までもが大きく異なっている。つまり、Alphabetが、SandboxAQを別会社として独立させることにした理由の一つはここにあるのかもしれない。


開発プロジェクトにおいて、量子コンピュータへのアクセスが必要な場合、SandboxAQは不可知的であり続ける。しかし、Google CloudやGoogle Quantumグループとの連携により、ユーザーの課題をか解決するソリューションを共同提供するケースも充分あるだろう。また、ビジネスの発展に伴い、将来的には販売チャネルを広げ、SandboxAQの提供するサービスを再販し、個々の顧客にサービスを提供できるサードパーティプロバイダーと協業することも視野に入れているとのことだ。


そのため、同社のAI技術と、様々な量子技術をミックスする機会は多いはずで、今後数年のうちに、他の市場や製品で、このような取り組みが行われることを期待している。



(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report

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