レポート:12月発表の研究論文 Hardware編


By Dr. Chris Mansell


過去1ヶ月間に発表された量子コンピューティングと量子通信に関する興味深い研究論文の概要を紹介します。



【 Hardware 】


Title: Synthetic weather radar using hybrid quantum-classical machine learning

Organization: Rigetti Computing


大気の状態は世界中で測定されている。しかし海洋や遠隔地では気象レーダーを利用することができない。そのような場合、畳み込みニューラルネットワークを使用して、合成レーダー画像を作成し、地図上の各ピクセルでの降雨量や雷の発生確率を予測することができる。


Rigettiの新しい論文では、量子と古典のハイブリッド機械学習モデルが、この処理に関連するタスクで優れた性能を発揮できるかどうかを調査している。はじめに、「Power of data in quantum machine learning」という論文の理論を用いて、ラベルなしの気象データが充分に複雑な時、量子分類機が、純粋な古典の分類機より優位に立てることを発見した。


続いてのステップは、降水量や雷の発生確率など、データに対するラベル付け方法の違いによって、この優位性を現実に実現する方法を見つけることであった。その結果、量子状態にデータをエンコードするという方法では、利用可能なラベルに対し、どうやら目標は達成できないことが示唆された。


科学には、「理論上は理論と実践の間に差がないが、実践上は差がある」という行動指針がある。彼らはこのことを念頭に置いて、ハイブリッド機械学習を訓練し、ひたすらその性能を試してみた。まず、量子変分オートエンコーダ(QVAE)を古典コンピュータ上でシミュレートし、その後、実際の量子ハードウェア(Rigetti Aspen-9プロセッサ)上で学習を継続させた。また、量子畳み込みニューラルネットワーク(QCNN)の学習も、同じ量子デバイス上で行われた。どちらの手法も32個の物理的な量子ビットを使用した。


その結果は、予測値の平均二乗誤差を比べると、未校正の古典モデルが最も良い性能であった。また、悪天候を正しく検知する確率が高かったのは、衛星データで学習させた未校正のQVAEだった。さらに落雷に関しては、データを量子ゲートの回転角にエンコードしたQCNNが、2つの指標で他のアプローチを上回った。全体としてこの結果は、実世界の機械学習パイプラインに量子プロトコルを置くことで、その信頼性が向上することを示している。


Link: https://arxiv.org/abs/2111.15605




Title: Quantum generative adversarial networks with multiple superconducting qubits

Organizations: Nankai University; Chinese Academy of Sciences; Zhejiang University; Tsinghua University; Shanghai Qi Zhi Institute


Generative Adversarial Network(GAN:敵対的生成ネットワーク)は、特定のデータ分布から、とあるサンプルを与えると、その分布に由来するかのような、新たなサンプルを生成することができるニューラルネットワークのことだ。具体例の一つとしては、人間の顔を写実し、存在するかのような画像を生成することがあげられる。本論文では、全対全接続の5つの超伝導量子ビットを量子GANとして動作させることで、その動作を実現している。一つのタスクでは、特定の量子状態を0.999の精度で出力するように学習し、別のタスクでは、XORゲートを適用し0.927の精度で出力する。この高い忠実度を実現するために、マルチ量子もつれのゲートを用いて、学習段階で損失関数の勾配を決めている。このようにして、プロトコルの大規模な実装に必要な機能をすべて備えている。


Link: https://www.nature.com/articles/s41534-021-00503-1



Title: Quantum advantage in learning from experiments

Organizations: Caltech; Google; Harvard; Black Hole Initiative; Berkeley; Microsoft; Johannes Kepler University; AWS


量子センシングの実験や、量子シミュレーションにおいて、古典コンピュータは、測定結果のみを処理するが、量子コンピュータは、量子データから直接学習することが可能だ。この論文では、指数関数的な量子的優位性についての3種類の証明と、システム量子ビットとメモリ量子ビットが同数の「Sycamore」量子プロセッサで行った2つの原理検証を行う実験が紹介されている。初めの数学的証明は、非可換な変数の値を予測するもので、古典的なリカレントニューラルネットワークと比較して、量子実験により桁違いの制度を達成した。2つ目の証明は、量子の主成分分析に関するもので、実験検証はないがノイズに強いことが期待されるとある。最後の証明と実験では、量子実験が、古典的アプローチよりも量子ダイナミクスを学習する上で著しく優れていることが示された。


Link: https://arxiv.org/abs/2112.00778



Title: A quantum processor based on coherent transport of entangled atom arrays

Organizations: Harvard; QuEra Computing Inc.; University of Innsbruck; Austrian Academy of Sciences; Massachusetts Institute of Technology; AWS


量子コンピュータの量子ビットは、高い接続性(理想的には全体全の接続性)を持つことが望ましいが、その実現は困難である。データパスを使用したり、量子ビットを移動させたりする試みがあるが、その規模は限定的となる。本論文では、コヒーレント輸送を可能にする冷却原子の大事なアップグレードについて述べている。1個の原子を2,000個の他の原子の前を通過させるのに、位相緩和時間の1,000分の1以下で輸送できることを示した。新しく改良されたリュードベリベースの論理ゲートと組み合わせて、7量子ビットのSteane符号状態、19量子ビットの表面符号状態、24量子ビットのトーラス上(円環面)のtoric符号状態など、様々な状態を作り出した。また、エンタングルメントの時間変化についても、今までに知られていない方法での調査を報告している。


Link: https://arxiv.org/abs/2112.03923



Title: Randomized Compiling for Scalable Quantum Computing on a Noisy Superconducting Quantum Processor

Organizations: University of California at Berkeley; Lawrence Berkeley National Lab; Massachusetts Institute of Technology; Quantum Benchmark Inc.; Keysight Technologies Canada; University of Waterloo


量子ビットを制御する時の自明な間違いは、予測困難に干渉しあうユニタリーエラーが引き起こされることだ。エラーが積極的に干渉する最悪のシナリオは、部分的にキャンセルされるような平均的な状況よりも、何桁も悪くなる可能性がある。幸いにも2016年、理論家達は、こうしたコヒーレントなエラーに対処するためのランダム化コンパイルという手法を考案した。今月の論文では、4つの超伝導量子ビットを使い、実験者たちは、このプロトコルが大幅な性能向上をもたらすことを実証した。さらに、量子コンピュータのハードウェアが改善され、ゲート忠実度が上がれば、このプロトコルはさらに効果的になることが示された。


Link: https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.11.041039



【Software偏】につづく



(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report