2022年3月の研究論文・ハードウェア編


By Dr. Chris Mansell


過去1ヶ月間に発表された量子コンピューティングと量子通信に関して、興味深い研究論文の概要を紹介する。



【 Hardware 】


Title: Qubits made by advanced semiconductor manufacturing(先進の半導体製造が生み出すキュービット)

Organizations: Intel, QuTech


 本論文は、28Si/28SiO2の界面にホストされた量子ドットを、300mmの半導体製造設備で、全光リソグラフィと完全工業化処理により作製したことを報告している。画期的な技術であり、実用的な量子コンピュータに必要な数千量子ビットの規模実現に向け、重要ステップに成り得るものだ。この手法により、歩留まりに優れたナノスケールゲートパターンを実現したという。この量子ドットは、多電子領域においてトンネル障壁の制御が可能であり、フォールトトレラントな2量子ビットゲートには欠かせない機能である。少数の電子領域における磁気共鳴を用いた単一スピン量子ドットの動作により、1テスラで1秒以上の緩和時間、3ミリ秒以上のコヒーレンス時間が可能となった。


Link: https://arxiv.org/abs/2101.12650



Title: Entanglement of Spin-Pair Qubits with Intrinsic Dephasing Times Exceeding a Minute(1分を超える位相緩和時間を持つスピンペア量子ビットのエンタングルメント)

Organizations: QuTech; Delft University of Technology; Harvard University; Element Six


 個体実験では、ここまでスピンのペアはノイズ源として扱われ、単一スピンが量子ビットとして用いられてきた。この論文では、これらの役割を再考し、各スピンのペアを量子ビットとして扱い、単一の窒素空孔スピンを使い、それを感知・制御することに成功している。結果として、量子ビットのディフェーズ時間は約2分となった。これは個別に制御可能な量子ビットの中で、最長となる報告である。記録的な性能であるが、その背景には、3つのメカニズムがあると明かした。さらにこの結果は、他の自然に存在するスピンペアにも応用できる可能性がある。この実験は、3.7ケルビンのダイヤモンドで行われたが、より優れた物質の探索の始まりとなるかもしれない。


Link: https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.12.011048



Title: A hole spin qubit in a fin field-effect transistor above 4 kelvin(4ケルビン以上のフィン型電界効果トランジスタにおける正孔スピン量子ビット)

Organizations: University of Basel; IBM


 技術の進歩に関する主張は、評価するのが難しい。例えば、シリコン量子ビットは、現在のコンピュータと同じシリコン製造プロセスを使えるのだろうか?FinFETトランジスタの微細化により、メーカーが量子効果について真に気にするようになるのだろうか?シリコンFinFETトランジスタ内にスピン量子ビットを作製し、極めて高精度な単一量子ビット論理ゲートを実証することで、この問題に光を当てる論文が発表された。半導体業界標準との互換性は非常に高く、このような量子ビットを従来の制御電子回路と同じチップに搭載することが可能になるかもしれない。このことで、従来のシリコン量子ビットのように低温にする必要がないため、よりシンプルでスケーラブルな低温装置を使用することができるという。スケールアップを試みる前に、読み出し技術の改善や2量子ビットゲートの実装など、引き続きステップを踏んでいく必要がある。


Link: https://www.nature.com/articles/s41928-022-00722-0



Title: Single electrons on solid neon as a solid-state qubit platform(固体量子ビットのプラットフォームとしての固体ネオン上の単一電子)

Organizations: Argonne National Laboratory; Lawrence Berkeley National Laboratory; The NSF AI Institute for Artificial Intelligence and Fundamental Interactions; Massachusetts Institute of Technology; University of Chicago; National High Magnetic Field Laboratory; Florida State University; Washington University in St. Louis


 1999年、超流動ヘリウムの表面から少し上に閉じ込められた電子が量子ビットとして機能する可能性が提案され、それ以来、この可能性を実現するための実験が進められてきた。今回、真空中でヘリウムを固体のネオンに置き換えるという新しい方法が実証された。最適化を行わなくても、得られた量子ビットの緩和時間は15マイクロ秒、コヒーレンス時間は200ナノ秒であり、これは電荷量子ビットの技術水準に近いものであった。この論文では、改善の余地がかなりあることを示唆している。一例としては、ネオンを純化すればコヒーレンス時間を1秒以上にすることができ、トラップ設計を改良すれば1量子ビット論理ゲートを12ナノ秒以下にまで高速化することなど。幾つかの改良を経て、元々トラップされたイオンのために考案された量子電荷結合素子技術を用いたスケールアップが可能になるかもしれない。


Link: https://arxiv.org/abs/2106.10326



Title (1): Dual-Element, Two-Dimensional Atom Array with Continuous-Mode Operation(デュアルエレメント、連続モード動作可能な2次元原子アレイ)

Organization (1): University of Chicago

Link (1): https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.12.011040


Title (2): Defect-Free Arbitrary-Geometry Assembly of Mixed-Species Atom Arrays (欠陥のない任意形状の混合原子アレイの構築 )

Organizations (2): Wuhan Institute of Physics and Mathematics; University of Chinese Academy of Sciences; Zhengzhou University

Link (2): https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.128.083202


 いくつかの量子コンピュータプラットフォームでは、1種類の量子ビットを計算用に、別の種類の量子ビットをメモリ用に使用する実験が行われている。今回、2つの研究により、超低温の原子で、これが可能であることが示された。論文(1)では、512個の光ピンセットがそれぞれルビジウム原子またはセシウム原子を捕捉し、論文(2)では、2種類の異なる同位体のルビジウムを同様に個別に捕捉している。これにより、クロストークなど原子レベルの量子コンピューティングプラットフォームの問題点を軽減できる可能性があり、測定した原子がトラップから失われない方法で原子を測定できるなど、機能面での向上も期待できる。




(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report