2022年4月の研究論文・ハードウェア編


By Dr. Chris Mansell


過去1ヶ月間に発表された量子コンピューティングと量子通信に関して、興味深い研究論文の概要を紹介する。



【 Hardware 】


Title: Two-qubit silicon quantum processor with operation fidelity exceeding 99%(動作忠実度99%超の2量子ビットシリコン量子プロセッサー)

Organizations: Princeton; NIST / University of Maryland; Sandia National Laboratories


 今年1月、シリコン量子ビットの非常に高い論理ゲート忠実度が『Nature』に報告されている。しかし、量子コンピュータには、状態準備・測定(SPAM)忠実度の高さも必要だ。シリコンデバイスでは、SPAMの忠実度は80〜90%程度であり、この値を向上させることが急務であった。4月に入り、新たな実験により97%を超えるまでになった。論理ゲートの忠実度も同様で、並列動作する


1量子ビットゲートで99%、2量子ビット制御位相ゲートで99.8%、一度に1量子ビットだけ制御した場合では99.9%と、素晴らしい結果が得られた。これらの数字と、最近の製造方法の進歩を考慮すると、シリコンスピン量子ビットはNISQプロセッサの「支配的」技術にスケールアップする可能性がある、と『Science』誌は主張している。


Link: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abn5130



Title: Experimental photonic quantum memristor(実験用フォトニック量子メモリスタ)

Organizations: University of Vienna; Politecnico di Milano; Consiglio Nazionale delle Ricerche


 「メモリスタ」とは、電荷の通過量に応じて、抵抗が変化するという特異な性質を持つナノスケールの電子部品このこと。古典メモリスタは、次世代コンピューティングシステムの候補として有望視されている。本稿で提案・実証した量子メモリスタは、古典メモリスタと同じ方程式に従うが、量子状態に対してコヒーレントに動作することができる。この装置では、集積されたフォトニックチップのさまざまな経路を光子が移動する。光子の測定時、アクティブフィードバックループを使用して、チップのビームスプリッターの反社を調整。そして、これにより得られた非線形性と短期記憶により、画像分類の課題に活用した。単一光子でデータを符号化した場合、古典メモリスタで報告されているよりも、高精度でリソース効率に優れた実験が可能であった。今後、この装置の規模を拡大し、どのような結果が得られるか興味深い。


Link: https://www.nature.com/articles/s41566-022-00973-5



Title: High coherence and low cross-talk in a tileable 3D integrated superconducting circuit architecture(タイル状3次元集積超電導回路アーキテクチャにおける高コヒーレンスと低クロストーク)

Organizations: University of Oxford; University of Southampton


 本論文は、4つの超伝導トランスモン量子ビットを含む、2次元タイルについて報告し、その設計により、性能指標を低下させることなく、多数のタイルを大きなグリッドに配置できることを示している。はじめに、ワイヤーをタイルの反対側の量子ビットに配置、そしてお互いを避けられるように平面から飛び出させる。続いて、タイルは空洞に囲まれており、量子ビットにクリーンな電磁環境を提供する。その結果、1量子ビットのゲート忠実度は99.982%であることを確認した(ゲートは順次・同時に関わらず)。これは、クロストークが極めて少ないことを意味し、タイルがスケーラブルであることの立証を助ける。補足情報には幾つかの計算結果があり、より多くのタイルを追加し、2量子ビットのゲートを実行できるように量子ビットを配線した場合、コヒーレンス時間と忠実度は、一定に保たれるはずだという。


Link: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abl6698



Title: Quantum state preparation and tomography of entangled mechanical resonators(量子状態の準備とエンタングルの力学的共振器とトモグラフィー)

Organization: Stanford University


 超伝導トランズモン量子ビットと、「圧電、ナノメカニカル、フォノニック結晶共振器」との結合による、量子の音響的プロセッサは、SF小説のようなものに聞こえるかもしれない。しかしこれは、実験的に実証された装置であり、近年、急速に改良が進んでいるものだ。この研究では、改善された製造方法により、トランスモン量子ビットと共振器のコヒーレンス時間を拡張している。決定論的なiSWAP動作を約25ナノ秒で実装し、推定忠実度95%、量子性が破壊されない読み出しのための測定を行った。今後は、コヒーレンス時間をさらに伸ばした上で、量子ランダムアクセスメモリやKerr-cat量子ビットのような機能を、アーキテクチャに組み込むことを計画している。


Link: https://www.nature.com/articles/s41586-022-04500-y




(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report