レポート:11月発表の研究論文 ①

By Dr. Chris Mansell


この1カ月間に発表された、量子コンピューティングと通信に関する興味深い研究論文をいくつか要約する。


【 Hardware 】


Title: フォールトトレラントな汎用量子ゲート操作の実装(Demonstration of fault-tolerant universal quantum gate operations)

Organizations: Institut für Experimentalphysik, Universität Innsbruck, Institute for Quantum Information, RWTH Aachen University, Institute for Theoretical Nanoelectronics (PGI-2), Forschungszentrum Jülich, Alpine Quantum Technologies GmbH, Innsbruck, Institut fur Quantenoptik und Quanteninformation,Österreichische Akademie der Wissenschaften


量子コンピュータは、論理的な量子情報を維持する必要がある。そのために、誤り訂正符号を用いて、幾つかの量子ビットを冗長的に符号化し、ノイズから保護しなければならない。量子情報を操作する際には、不完全な操作に起因するエラーが、秩序なく広がることがないようにする必要がある。このことは、量子レジスタに対する操作が、全てフォールトトレラントな回路設計に従う必要があり、実装の複雑さを増大させてしまう。

本論文では、2つの論理ビットに対するフォールトトレラントな汎用ゲートセットを、イオントラップ量子コンピュータで実証したことが報告する。危険なエラーの有無を通知するために、最近導入された「フラグ・フォールト・トレランス」というパラダイムを利用し、幾つかの補助的な「フラグ」量子ビットを使用している。具体的には、7量子ビットカラー符号の2つのインスタンス間で、論理的な2量子CNOTゲートを実行し、また、フォールトトレラントに論理的なアンシラ状態(magic state)を準備する。そして、一方の論理量子ビットから他方の論理量子ビットに、テレポーテーションを介しアンシラ状態(magic state)を持ち込むことで、安全な論理Tゲートを実現する。その結果、非フォールトトレラントな実装と比較して、優れた性能を得られた。この成果は、最近実証された反復量子エラー修正サイクルと組み合わせることで、エラー訂正された普遍的な量子計算への道を開くものである。


Link: https://arxiv.org/abs/2111.12654


Title: 超伝導的な熱電流:量子コヒーレンスによる電流-損失トレードオフの効果的解消(Superconducting-like Heat Current: Effective Cancellation of Current-Dissipation Trade-Off by Quantum Coherence)

Organizations: The University of Electro-Communications; Japan Science and Technology Agency; RIKEN

ヒートエンジンは、高温部分(ホットバス)が周囲から熱を吸収し、機械的な作業を行い、低温部分(コールドバス)に熱を放出し初期状態に戻る、というプロセスを繰り返す。このプロセスを逆にすると、熱機関は冷却器として機能する。熱機関はどこにでもあるが、そのパワーと効率には根本的なトレードオフがある。しかし量子熱機関の理論的研究では、特定の困難な条件を満たすことができれば、この古典的なトレードオフを超えられることがわかっていた。

今回発表された結果では、高効率と高出力を同時に満たすためには、同じエネルギーをもつ量子状態間のコヒーレンスが必要だと示された。この結果は、すでに量子冷却器のプロトタイプを実証している実験者にも達成可能であり、ナノスケールデバイス用の冷却器を開発する上での見通しを向上させるものである。

Link: https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.127.190604



Title: ノイズの多い量子プロセッサでの高次元データの機械学習(Machine learning of high dimensional data on a noisy quantum processor)

Organizations: University of Waterloo; Fermi National Accelerator Laboratory; Google Quantum AI; Sandbox@Alphabet


カーネルベースで行う量子機械学習に関する実験的研究は、通常、ごく少数の量子ビットで低次元のデータを処理することで行われている。この論文では、Google社の量子プロセッサ「Sycamore」に搭載されている17個の量子ビットに遠隔操作でアクセスし、天体物理学に関連するデータを分類するために使用した。具体的には、各データポイントは、II型またはIa型の超新星からの光の測定に関連する67個のパラメータで構成されている。回路の忠実度が高くないにも関わらず、量子分類器は、競合する古典的なアプローチに匹敵する精度を達成した。これは、量子カーネルがハードウェアに効率的に実装され、高い性能を発揮し、ノイズにも強いことを示している。興味深いのは、読み出しエラーを低減する試み自体は、ノイズ耐性を改善するものではなかった点だ。


Link: https://www.nature.com/articles/s41534-021-00498-9


(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report