特集インタビュー:金融業界から量子コンピュータに参戦するフランスのQuantFiとは? 2/3

ビジネスインタビュー


10月に行われた量子コンピューティング EXPOでも多くの来場があり、話題となっていたフランスの量子金融QuantFi。興味を持っている方も多いのではないでしょうか。今回、カントリーマネージャーの田中様にインタビューさせていただきました。とても中身の濃いインタビューとなり、全3回中今回は2回目になります。


初回は起業の経緯と、田中さんがカントリーマネジャーとして就任する話を伺いました。今回はその続きとして、日本での市場調査の話からクライアント獲得へと続きます。


Part 1はこちらから。

 


ジャパン・カントリー・

マネジャー


田中香織

 

ー市場調査の様子をお聞かせください


田中氏:驚いたことに、日本滞在中の後半の1週間で、朝から日が沈むまで既にいくつもアポを入れていて、いくつか重要なところを訪問しました。金融機関、Finolab、慶應大学のIBM Quantum Hubなどです。慶應矢上キャンパスを訪問したときは、慶應大学とIBM両方のコアメンバーに会い、どのような研究をしているかについてお互い披露し、リサーチャー同士で情報交換したり質問をしあったりして内容の濃い有意義な時間を過ごしました。



ー事前準備されていたのでしょうね。日本市場への期待が感じられて嬉しいです。


田中氏:慶應・IBMの皆さんと一緒に校内でランチを一緒にとり、思い出深い訪問になりました。量子金融を専門とする会社は世界的にみて多くないので、外国企業にもかかわらず歓迎してもらえたことは奇跡だなと思いました。たくさんの潜在顧客のオフィスを訪問してハードな1週間を過ごすなかで、共同創業者が私を紹介するときの私の地位がどんどん出世していき、フランスに帰るころには信頼関係が築かれて「日本は香織にまかせていますから」と客先で紹介されるようになりました。


(慶應大学のIBM Quantum Hubで研究内容を披露しあった様子(2019年11月28日))



(研究室入り口の「Q」の前で記念撮影。この後このメンバーでランチ)



ー信頼関係が築かれていく様子が伝わってきます。


田中氏:フランス人同士のネットワークは日本人が考えるよりも強力なようです。LinkedInのメッセージでまだ会ったことない日本在住のフランス人と連絡を取り合い、フレンチ・コネクションを駆使する様子は感心しました。その一つに、「La French Tech Tokyo」の役員も務めるフランス人がセットアップしてくれたセミナーがありました。私たちはこのセミナーに登壇して、「量子とは?」から始めて、量子業界の動向と、QuantFiの研究分野やプロダクトを60名くらいの来場者に紹介しました。後に、私はこのセミナーのファシリテーターを務めていたBrunoさんと一緒に、別に仕事をするようになったのですが、そういう意味では私もフレンチ・コネクションを早速駆使して器用ですね。



ーカントリー的な絆は入るのは大変だけれど、一度

信頼関係ができると強いようですね。他にもありましたらお願いします。


田中氏:日本での市場調査中にFinolabの柴田さんを訪ねたとき、「近々Finolabで量子イベントがある」という情報を得たので、早速参加してみました。その時にネットワーキングしていて、さらに「近々ブルーキャットサミットが開かれる」という情報を仕入れました。わらしべ長者のように次々と有益な情報を得て、知り合いが増えていきました。



(blueqat Summitに参加してみた(2019年12月18日))


ーわらしべ長者いいですね(笑)、みんなでわらしべ長者になる環境つくりは、ベンチャー界が盛り上がるための一つのキーワードかもしれません。その時のサミットの様子を教えてください。


田中氏:blueqat Summit 2019は、量子業界の最新情報を得られるイベントで、前半は8社が15分ずつプレゼンしていき、後半はお寿司がつまめる懇親会でした。南青山のNAVITIMEのイベントスペースで開催されて、300名以上が参加していました。当時はblueqatがSDKの名前だとも知らず、宝石の名前かなと思いながら参加したのを覚えています。ドラえもん(青いネコ)に由来するネーミングだと知って、この会社はイケてるなと思いました。


※ blueqat Summit 2019概要:https://qnn.connpass.com/event/141250/



(米国テキサスのStrangeworksからは Andrew Ochoa氏が参加してプレゼンしていた)


(量子業界で有名な本。アンドリューからもらった)


田中氏:同じくSDKの開発をしているアメリカの会社Strangeworksも来日して登壇していました。プレゼンのスライドのデザインが抜群にかっこよくて、この会社は只者ではないなと思ったのを覚えています。そこで私は、休憩時間にStrangeworksのアンドリューのところへ行って「Hi」と話しかけて、プレゼンに感激したことを伝えました。するとアンドリューが気前よく「Quantum Computing for babies」という本をくれました。とてもうれしかったです。これはChris Ferrie とWhurley(StrangeworksのCEO)の共著で、量子業界で世界的に有名な本です。アンドリューとは初対面でしたが、すっかり仲良くなりました。その後Twitterでも仲良くなり、いい信頼関係が築けているので仕事上でも助かっています。


(blueqat Summit懇親会で振る舞われたお寿司)



(Hacker(ハッカー)、Nerd(ヲタク)など、会場の量子業界人から大人気ですぐに飲み干されたワイン)



ーネーミングやデザインってセンスを感じると心が躍ります(笑)、田中さんはデザイナーでもありますよね?余計に気になるのではないでしょうか。話を進めさせてもらいますが、日本市場への参加でまず苦労したことはありますか?


田中氏:世界の全ての人がまだ記憶に新しいと思うのですが、2020年からCOVID19が始まり、世界中でビジネスがビデオ会議で行われるようになりましたよね。これは私たちQuantFiにとっても私自身にとっても、ある意味非常にラッキーなことでした。もしCOVID19以前だったら、外国企業がオンラインで会議をして協業しましょうなんて、提案してもなかなか実現しなかったのではないかと思います。



ー国内では、在宅ワークが増え、既存の働き方が大きく変わりました。パンデミックという渦の中で、知恵を出し合いながら進めてきたのでしょうね。田中さん個人は日本にいて不便はなかったですか?


田中氏:全く不便もなく最高でしたね。会社に通勤するという働き方は2018年で終わりにしていたので、COVID19になってやっと周りのみんながついてきたなという感覚でした。また、フランスは日本と時差8時間なので、日本の企業と仕事をする場合には先方の就業時間内に会議をすることが可能なので、うちの会社としても問題ありませんでした。でも日本にいるとアメリカとは時差がキツイ…。



ー最初のクライアント作りも大変だったと思います。


田中氏:おかげさまで、日本に上陸してから半年もしないうちに日本の企業からオファーがあり、日本での初めてのクライアントを獲得しました。有償のプロジェクトです。これが外国のスタートアップにとってどれほど難しいことかは皆さんもご存知だと思います。QuantFiの初めてのクライアントは、量子暗号通信技術でリードしている東芝デジタルソリューションズ(TDSL)です。お互い一度もリアルでお会いしないまま、全てビデオ会議でSBM*プロジェクトを進めました。


注* SBM(組合せ最適化ソルバーSimulated Bifurcation Machine / シミュレーテッド分岐マシン)



ーTDSLはロンドンで量子メトロポリタン・ネットワークの実験をしていて、私たちも注目しています。


田中氏:また、同時期にPlug & Play Japan のアクセラレーター・プログラムに採択されました。ここでの成果は色々ありました。プレゼンをブラッシュアップできたことや、FinTechの分野でエントリーしていたので、金融機関とビデオ会議する機会が持てたこと、日本企業からの信頼度が上がったことなどがあります。また、社内的には、改めて日本のビジネス・カルチャーを理解するいい期間になりました。ヨーロッパやアメリカでは、かなり柔軟にビジネスを進められスピードも速いですが、日本はその真逆だということをケヴィンたちに理解してもらえました。それまでは、一つの返事をもらうのに、日本ではなぜそんなに時間がかかるのかと何度も聞かれていたのですが、「稟議・根回し・検討」のカルチャーを実感して理解してもらえたので、それが私にとっても良かったです。



(Plug & Play Japan (Batch5, FinTech))

※ リンク:https://japan.plugandplaytechcenter.com/startups/our-startups/quantfi/



ー慎重であることの良さはあるのかもしれませんが、聞いていて少し複雑な気持ちです(笑)。コロナ禍での状況をもう少し詳しく聞かせてもらえますか?


田中氏:フランスの2020年といえば、厳しいロックダウンと、マクロン大統領のQuantum Planの2つではないでしょうか。フランスはロックダウンが厳しく行われましたので、全ての同僚が各自の家から働くことになり、おかげで私を含めて全員でビデオ会議をする習慣が生まれました。みんながどんな家に住んでいてどんな感じで仕事しているのかを知るのもおもしろいと思いました。また、一人だけ日本に取り残されることなく、国を越えて同僚と一緒に働く楽しみや喜びを経験できたことは、COVID19をポジティブに捉えられる一つになりました。これは私だけですが、最近はビデオ会議のときに毎回背景画像を取り替えて臨み、おもしろネタや私の最新流行トピックを紹介するきっかけにしています。フランスのみんなも楽しみにしているようです。例えば、葛飾北斎xチキンラーメン、ブルックリンのNFTアート、ドミニク・アンセル(クローナッツで成功しているアメリカ在住のフランス人のお店)、StationF内部、マクロン大統領執務室、LAの10億円豪邸のリビング、宇宙船のコックピットなどですね(笑)


(ブルックリンのNFTアート)

Source:Street Artist Paints NFTs on a Brick Wall in Williamsburg

https://laughingsquid.com/street-artist-paints-nfts-williamsburg-wall/


(葛飾北斎xチキンラーメンひよこ)

Source: https://www.chickenramen.jp/download/


ー最初に場の雰囲気をつくってくれる人は、一会議に一人ほしいです。


田中氏:さて、フランスの量子業界は、マクロン大統領が年初に発表した「Quantum Plan」という投資計画でかなりざわつきました。今後5年間で18億ユーロ(2,345億円)を量子技術に投資するというものです。量子金融もこの投資計画がカバーする分野に含まれています。ヨーロッパはアメリカに比べて投資規模は小さいと言えますが、フランスは最先端のテクノロジーに対する教育や企業への投資に力を入れているので、量子業界に進みたいと考えている学生は、日本と比べるとはるかに恵まれた環境・経済状況で成長しています。研究レベルも高く、多くの機会にも恵まれています。もし量子業界にいる日本人で、量子金融の会社で仕事をしたいと考えている人がいれば、QuantFiに興味を持って連絡してもらえると嬉しいです。英語でのコミュニケーションは続けていれば、そのうち慣れるので、読み書きが得意な日本人なら心配はないと思います。ちなみに私の場合は、NetflixとかっこいいBloomberg TVの2つで今も英語の喋りスキルをアップさせています。



※ フランスの量子技術への投資計画「Quantum Plan」

https://www.businessfrance.fr/discover-france-news-1-8-billion-in-funding-for-quantum-technologies


(Bloomberg Technology)

https://www.bloomberg.com/btv/series/bloomberg-technology


(ホストのEmily Changさん(左)がかっこよくて好きです)

Source: https://twitter.com/technology/status/1470894109556711430?s=20


ー量子コンピューティングと金融は、世界でも先端を走っていますし、若い方へのメッセージは最後にもう一度お願いしたいと思います。




【 Part 3に続く 】


今回は、コロナ禍でどのように日本で市場調査とクライアント獲得を進めてきたのか伺いました。次回は最後となりますが、QuantFiの具体的なサービスを丁寧に教えてくれましたので、少し長くなりますが、ご期待ください!(編集部)




企業概要

企業名:QuantFi

所在地:フランス パリ

設立:2019年

URL:https://www.quantfi.com

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