コラム:2022年の展望 量子ハードウェア ②超伝導 IBM

By David Shaw, 「Fact Based Insight」


この記事の原文は、「Fact Based Insight」のウェブサイトからで、許可を得て再掲載しています。原文はこちらから。



★超電導量子ビットが着実に★


【 IBM ロードマップの基本的な進捗を印象づける 】


2021年、IBMは、これまでで最大の127Qプロセッサー「Eagle」を発表した。このプロセッサがどのくらいQV(Quantum Volume)を実現するかはまだわからない。ただ短期的には、量子ビット数よりも忠実度により確実に制限されているだろう。それでもEagleは印象的だ。IBMのチームは、読み出し共振器と制御線を異なるレイヤーに配置する新しい多層チップアーキテクチャの開発を成功させ、喜びを隠せずにいる。これは制御用配線の課題を大きく改善し、さらなるスケーリングのための概念実証となるものだ。ともかくも重要なのは、前世代の性能を超えて、向上し続ける能力を実証していることだろう。


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「Fact Based Insight」は、IBMの基礎となる忠実度統計の進歩が特に重要であると考えている。「Falconシリーズ」のデバイスは次々と有望な成果をあげている。R8リビジョンは現在、約0.3ms(T1)の平均寿命に定期的に到達し、テスト機では0.6msを達成している[1]。コヒーレンス時間の長さ(寿命)は、最終的に全体的な忠実度の重要な基礎となる。長い寿命は、量子ビットが他の動作の完了を待つ必要がある場合にも重要だ(誤り訂正サイクルの間など)。このことは、IBMの固定周波数トランズモン型量子ビットで約束されたものであり、他のプレイヤーがそれに匹敵するのは簡単ではない。

2021年の印象的な発表がある。「Falcon R10」のCNOTゲートは、2Qゲートの忠実度が99.91%に達したということで、IBMのプロセッサ・ファミリーはとにかく一貫している。さらに、調整可能なカプラ(連結器)の導入などで、アーキテクチャのバリエーションを探る実験デバイスで有望な結果を発表している。小型のテストデバイスでは、99.85%2Qゲート忠実度という結果が報告された[2]。この技術は、並列オペレーションにおけるクロストークの抑制にも役立つはずだ。

IBMの進捗は重要だ。現在の材料と製造技術で大規模デバイスの2Qゲートで、忠実度99.9%にすることが妥当な予測であることの根拠を示しているのだから。もし、材料工学の進歩や、まったく新しい製造技術に頼る必要があるなら、この分野のタイムスケジュールは積極的すぎると失望させられるだろう。

IBMは、ヨークタウンハイツにある200mmパイロットライン設備で、自社製チップを製造している。超伝導量子ビットの特定のコンテキストにおける最先端であることを指摘し、このことが、より多くの量子ビットを搭載したシングルチップの製造に自信を与えているようだ。さらに彼らは、広範な特許ポートフォリオと、製造技術を保護するための役割もポイントに挙げている。
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またIBMは、初期量子デバイスにおいて新しい性能の指標を導入した。CLOPSと名付けられた指標は、これまでのデバイスのサイズ(Qubit count:量子ビット数)や品質(QV:量子ヴォリューム)ではなく、速度に焦点をあてるものだ。これは、代表的な操作サンプルを、どれだけ早く完了させることができるかというもの。


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-Qubit count
量子ビット数は、依然として重要な指標だ。例えば約50Qビット以下では、量子コンピュータでできることは、古典コンピュータでもできるということを思い出してほしい。

-Quantum Volume
この指標は、デバイスが信頼に足る実装ができる最大のランダムな「正方形」回路を測定するものだ。量子ビットの幅と、QV層の回路の深さを組み合わせたものになっている。各層は、量子ビットの並べ替えと、すべてのペア間におけるランダムな2Qゲート(特にSU(4)ゲート)で構成されている。物理回路の深さは、一般的にQV層よりはるかに大きくなるため、この指標は、量子化ゲートの忠実度だけでなく、他の指標を含まれている。柔軟なネイティブ・ゲート・セット、拡張量子ビットの接続性 効果的なコンパイラ・ルーティングと低レベルのエラー軽減など。[3]

-Circuit Layer Operations Per Second(回路操作/s)
この指標は、プロセッサがQVレイヤーモデルの回路を1秒間に実行できる数を測定する(100ショットの平均値)。これにより、ハードウェアに依存しないアプローチができ、高速ゲートだけでなく、高忠実度の高速読み出し、低レイテンシー制御システム、低レベルのコンパイラの性能の影響を捉えることが可能となった。
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これまで量子コンピューティングの提唱者は、プロセッサーの速度よりも、アルゴリズムの優位性によって実行されることが量子コンピュータの勝利につながると考える傾向があった。しかし、実機が直面する課題への洞察が深まり、より具体的な対策を余儀なくされている。短期的には、NISQデバイス上で、高速繰返し変分アルゴリズムを適切な時間枠で実行でする必要があるだろう。さらに、FTQCの現状は遅すぎで、2次関数的な速度上昇しか得られないアルゴリズムに、特段利点はなさそうだ。高速なゲートがほしい。


ベンチマークの有用性は、それが役に立つかどうかで判断できる。コミュニティの問題解決に役立つのか、それとも単にゲーム化されるだけなのだろうか。「Fact Based Insight」は、量子ビット数、QV、CLOPSを合わせて、有用なハイレベル指標となる可能性があると考えている。2019年IBMのデバイスは、16QVと200CLOPS(推計値)しか提供していなかった。それが現在は、クラウドアクセス可能なFalconプロセッサーで、128QVと2,000以上のCLOPSを提供している。


Eagleは、IBM Quantum System Oneの筐体を利用したプロセッサの最終ラインだ。次世代の筐体System Twoが発表されている。これは制御電子機器とごく低温装置を包含するモジュールタイプの六角形コンセプトのものだ。冷却のための電力を充分に供給し、ダウンタイムを最小限に抑えることは、超伝導量子ビットのスケーリングの一つの課題となっている。彼らはこの要件を満たすために、専門のBluefors社をパートナーに選択した。また低温容量の拡大によって、量子インターコネクトを利用したプロセッサー間のコヒーレントなネットワーク構築へのドアも開かれた。


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-IBM roadmap 
2021127Q(Eagle)、2022433Q(Osprey)、20231121Q(Condor);
1MQの大規模システムへと導く。  ヘキサゴンコード(ハイブリッドサーフェイスコード&ベーコンショアコード)による誤り訂正。望ましい指標:量子ビット数、QVCLOPS。
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OQC(Oxford Quantum Circuits)は、英国の超伝導量子ビットのスタートアップだ。量子ビットの競合他社とは対照的に、OQCは固定周波数の量子ビットも使用している。特許を取得した同軸量子ビットのアーキテクチャは、IBMがEagleのスタック方式で対応しているのと同じように、配線上の課題を解決するため第一原理から設計されたものだ。両社の統計的な比較が興味深いところ。


OQCは、北米以外の企業では初めて、自社のプラットフォームをAmazon Bracketで利用可能にしたことを発表し、節目を迎えたと言えそうだ。さらには、英国初の商用QCaaSの提供を開始した。



References


[1] “IBM Quantum Summit 2021.” [Online]. Available: https://summit.quantum-computing.ibm.com. [Accessed: 12-Dec-2021]

[2] J. Stehlik et al., “Tunable Coupling Architecture for Fixed-frequency Transmons,” arXiv:2101.07746 [quant-ph], Jan. 2021 [Online]. Available: http://arxiv.org/abs/2101.07746. [Accessed: 10-Feb-2021]

[3] A. W. Cross, L. S. Bishop, S. Sheldon, P. D. Nation, and J. M. Gambetta, “Validating quantum computers using randomized model circuits,” Phys. Rev. A, vol. 100, no. 3, p. 032328, Sep. 2019, doi: 10.1103/PhysRevA.100.032328. [Online]. Available: https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevA.100.032328. [Accessed: 22-Apr-2020]



③へ続く



(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report


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