Infineon社、耐量子化ファームウェア更新機能を備えたトラステッド・プラットフォーム・モジュール(TPM)チップを発表





量子コンピュータがRSA暗号を破る(ハッカーが転送中のデータを解読できる)という脅威が話題である。それとは別に、量子コンピュータがデジタル署名を大混乱に陥れる可能性、という問題がある。現在、私たちが使っているほとんどの電子機器はファームウェアを搭載している。プログラムをメーカーがアップデートすることで、バグの修正や新機能の追加が可能になっているのだ。現在この機能は、新しい自動車に搭載され始めている。メーカーはわざわざディーラーに出向くことなく、自動車のファームウェアを更新可能な「Over-the-Airファームウェア・アップデート」を宣伝している。


ファームウェアアップデートは潜在的な問題を抱えている。それは、悪質な業者が、偽のファームウェアアップデートを作成し、それを機器にダウンロードさせることで、誰にも気づかれずに悪意のある機能を挿入する可能性があるというものだ。この対策として、デジタル署名が考案された。ダウンロードしたコードに符号化されたデジタル署名付与し、機器はそれを確認して以前に保存したものと比較することで、新たなダウンロードの有効性をチェックすることができるようになった。しかしながら現在一般的に使われている古典的な電子署名アルゴリズムには、インターネット通信の鍵配布に使われているRSA暗号と同じ脆弱性があり、強力な量子コンピュータを持つ誰かが、有効に見える偽造ファームウェアのダウンロードを実行できる可能性があるのだ。


XMSS(eXtended Merkle Signature Scheme)と呼ばれる、新しい耐量子デジタル署名アルゴリズムが、すでにIETF(Internet Engineering Task Force)とTCQ(Trusted Computing Group)の標準化団体に承認されているのは朗報である。Infineonの新しい Optiga TPMチップにハードウェアで実装された XMSSは、私たちが知る限り、この機能をハードウェアに組み込んだ最初の商用チップだ。


TPMチップは、暗号演算を行うためのセキュアな暗号プロセッサである。このチップには、改ざんを防ぐための物理的なセキュリティ機構が複数組み込まれており、悪意のあるソフトウェアがTPMのセキュリティ機能を改ざんすることはできない。TPMはシステム全体の信頼を保証する根源となるもので、最近のパソコンなどには標準で搭載されているチップである。TPMは、暗号鍵の生成と保存、そしてシステムの起動時にファームウェアとOSのコンポーネントを検証、測定、記録などを保証する。


TPM自身は小さなプロセッサで、これもファームウェアで動作している。そこで、耐量子XMSSが活躍するわけだ。TPMを駆動するファームウェアもダウンロード可能で、XMSSのデジタル署名機能を破って、偽のファームウェアをデバイスにインストールすることはできない。InfineonのOptiga耐量子TPMチップと、その量子耐性機能の詳細については、プレスリリース、プレゼンテーションスライドデッキ、ビデオは、下記の参考リンクを参照。


Optiga耐量子TPMチップの導入は、Infineonが取り組んでいるいくつかの量子関連の活動の一つに過ぎない。その多くは本サイトの過去記事でお伝えしているが、ここでは、彼らがパートナーとともに参加している他の6つの量子関連プロジェクトを統合してリストアップした。


  • ATIQプロジェクト(Trapped-Ion Quantum Computer for Applications)では、イオントラップを用いた量子コンピュータのデモ機を開発し、30ヶ月以内にユーザーが24時間確実に利用できるようにすることを目指しています。

  • MuniQC-SC (Munich Quantum Computer based on Superconductors) 超伝導体を用いた量子コンピュータのデモ機を開発する。

  • QuMICプロジェクト(Qubits Control by Microwave Integrated Circuits)は、イオントラップや超伝導量子ビットを用いた量子コンピュータに必要な高周波電子回路や制御電子回路の小型化に焦点を当てたプロジェクト。

  • QVOL(Volume Production of quantum sensors based on magnetic field sensors in silicon carbide)とは、炭化ケイ素技術に基づく量子センサー構造を開発し、大量生産にも対応できるようにするものだ。

  • QuaST (Quantum-enabling Services und Tools) は、量子コンピュータへのアクセスを大幅に簡素化するソフトウェアツールの開発を行っている。

  • QuBRAプロジェクト(Quantum methods and Benchmarks for Resource Allocation)は、古典的なアプローチと比較して量子コンピュータの実用的な利点を判断するためのアルゴリズムとベンチマークを開発するプロジェクトである。


これらのプロジェクトに関するInfineonの活動についての詳細は、Infineonが発表したプレスリリースを確認してほしい。



※参考


ATIQプロジェクト

https://www.quantentechnologien.de/forschung/foerderung/quantencomputer-demonstrationsaufbauten/atiq.html


MuniQC-SC

https://www.quantentechnologien.de/forschung/foerderung/quantencomputer-demonstrationsaufbauten/muniqc-sc.html


QuMICプロジェクト

https://www.quantentechnologien.de/forschung/foerderung/enabling-technologies-fuer-die-quantentechnologien/qumic.html


QVOL

https://www.clusters4future.de/die-zukunftscluster/qsens


QuaST

https://www.digitale-technologien.de/DT/Navigation/DE/ProgrammeProjekte/AktuelleTechnologieprogramme/Quanten_Computing/Projekte/QuaST/quast.html


QuBRAプロジェクト

https://www.quantentechnologien.de/forschung/foerderung/anwendungsnetzwerk-fuer-das-quantencomputing/qubra.html


◆量子耐性機能の詳細 プレスリリース

https://www.infineon.com/cms/en/about-infineon/press/market-news/2022/INFCSS202202-051.html


◆量子耐性機能の詳細 スライドデッキ

https://www.infineon.com/dgdl/Infineon-OPTIGA-TPM-SLB9672.pdf?fileId=8ac78c8b7e7122d1017f071c3f6b00d2


◆量子耐性機能の詳細 映像

https://livestream.com/infineontechnologies/optiga/videos/229380428


◆Infineonが発表したプレスリリース

https://www.infineon.com/cms/en/about-infineon/press/press-releases/2022/INFXX202202-052.html



(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report

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