コラム:中国の量子タレント育成

By Amara Graps


●中国は部門を通じて、絶大な資金を投入している


 MOST(科学技術省)、NDRC(国家発展改革委員会)を通じ、中国は若者に対して、量子における何を伝えようとしているのでしょうか?公立学校において量子教育はあるのでしょうか?あるのです。すでに新しい取り組みとして具体化しています。


初等教育の近代化


 それは上から下まで、国の教育近代化計画の一環として、初等教育で量子技術を取り入れようと動いています。


 教育部基礎教育カリキュラム・教科書開発センターの陳雲龍副主任は、人工知能、ビッグデータ、量子情報、バイオテクノロジーなどを具体的に挙げた上で、「未来に向けて、基礎教育の歩みは、技術発展の波に追いつくべきだ」と記しました。この点に関して中国は、「中国教育現代化2035年版」、そして「教育現代化推進加速化実施計画(2018-2022)」という教育の近代化を加速するための2つの文章を発表しています。


 2035年は、中国全体の発展スケジュールにおいて特別に重要な年でしょう。それまでに社会主義近代化を実現すると公約しているのですから。


 近代化計画では、小中学校のカリキュラムを開放し、子供たちの興味・関心の探究を促す、そして、インタラクティブな科学技術を取り入れたカリキュラムの拡充を目指しています。中国が教育改善に投入している資金はかなりの額に上ります。


 中国の教育近代化2035計画の初年度である2019年には、GDPの4%以上、1兆元(約19兆円)以上を割り当てました。公開情報に限定しているので、この資金が広くいきわたることが必要であることが分かります。例えば、MOSTの2020年最終予算では、教育項目は12億1210万元(約235億円)となっています。このような資金援助と、この新しい枠組みにより、量子教育が小中学校に入るための資金援助と、政策的支援が行われることになりました。最近の若者の量子教育の実践例としては、下記のQuantum Origin社やCIQTEK社によるものがあります。


合肥の量子関連企業が量子教育を支援


 2017年9月、中国初の量子コンピューティングスタートアップであるOrigin Quantum Computing Technology Co., Ltd.(合肥本源量子计算科技有限责任公司、「元源」量子または「本源」量子と訳される)が設立しました。現在では、合肥市にある従業員300人を抱える企業になっています。量子コンピューティングの発展を促進し、国内の量子コンピューティング人材を育成するため、Origin Quantum社は、量子コンピューティングのソフトウェアとハードウェアシステムを開発する一方で、量子教育部門を社内に開設しています。


 2021年、Origin Quantumは合肥市師範小学校を訪問しました。創業者の教育のルーツである中国科学技術大学から郭国平氏が、学生たちに「量子とは何か、量子コンピュータとは何か、量子コンピュータはどのようなものか?」を講義しました。


Professor Guo Guoping explaining quantum technology to students at Hefei Normal Primary School. Photo Source from Origin Quantum’s website.



 学校訪問は、教育活動の一環に過ぎません。同社は、クラウドベースの量子教育用ハードウェア「Yuanyuan Quantum Learning System,」も持ってます。


 合肥には、もう一つの量子技術企業があります。CIQTEK社は、ダイヤモンドの窒素空孔(NV)センターを利用した量子コンピューティング教育デバイスを発表しています。残念ながら詳細は不明であり、価格も記載されていません。


大学の量子教育


 上記の「実施計画」では、教育の近代化を推進するための10の重点課題が提案されています。第4の課題として。量子教育・研究の文脈が取り上げられています。


 実施計画に、高等教育改革として明記されている内容は、新たな一流大学ネットワークの構築、高度な大学院教育、希少価値の高い技能の養成、科学研究の充実、最先端科学センターの建設、国立研究所建設への参画です。


中国科学技術大学(USTC)。量子技術教育リーダー


 1990年代にはすでに、中国科学技術大学(USTC)の大学院生向けとして、量子関連の選択科目が開講されました。その後、学部生を対象とした選択科目も提供されるようになりました。しかし、量子情報科学は、情報学と量子物理学の間の学際的な性質を持っているため、独自の学部と大学院のカテゴリーが必要になってきます。量子力学を学んだ若い人材を育成する必要性については識者の間でも意見が一致しています。「第14次中期計画における量子情報分野の関連課題を実現するためには、十分な規模の優秀な若手人材を支援することが必要です」といっていた中国科学院量子教授の郭国平氏の願いは、2021年に成就したのです。


The University of Science and Technology of China in Hefei. Photo Credit: South China Morning Post.


写真:東部安徽省の省都、合肥市にある中国科学技術大学は、米国のアイビーリーグに相当する同国のエリートリーグ「C9」に所属している。写真出典:South China Morning Post.


2021: 量子情報科学の新専攻分野


 2021年初頭、文部科学省は、2020年の一般高等教育機関の学部専攻の申請・認可の結果を発表しました。一般大学の学部学科目録に新たに37の専攻が追加され、量子情報科学はそのうちの1つです。「量子情報科学専攻が追加されたことは、タイムリーで必要なことであり、量子技術産業に対する国のコミットメントを反映するものでもあります」と国平氏は言いました。いくつかの大学が、量子情報学部課程をスタートさせました。中国科学技術大学(以下、USTC)もその一つであり、清華大学もその一つです。


 大学院の量子情報コースも開校されています。郭国平氏によると、USTCの他にも、修士・博士課程で量子コースが以前からある山西大学、中国科学院物理研究所などの単位でも量子情報科学の大学院コースがあり、また国内の多くの大学でも同様の選択コースがあるそうです。


量子スキルの成長と将来の温床


 国の莫大な教育支援により、もうすぐ卒業する量子情報の学生たちは、世界にその名を轟かせていくでしょう。文部科学省2020年統計の次図、行項目にある工学系大学院生のプールを見てください。この250,282人の様々な工学系スキルセットの大学院生は、将来、この国の量子技術を担う、人材プールへのベクトルなのです。


Engineering line item from the Chinese Ministry of Education website for their 2020 statistics.


 この量子技術の教育実施計画において、中国は今現在どのような状況なのでしょうか?中国が得意とする分野の一つ、量子ドットについて見てみます。


 2016年以降に取得した量子ドット特許のうち、その特許の取得機関は、中国教育省が2022年2月に発表した「ダブル一流機関(Double First Class)」のリストの20%を占めています。したがって、この取り組みはまだ初期段階であり、時間を必要としているでしょう。これまでの量子研究の進展は、量子メンターや量子リーダーといった集団に、その多くは依存していました。しかし、将来の量子研究の拠点として、Double First Classの地図に目を向けておくことをお勧めします。


量子情報科学と産業界の融合


 国平氏の考えでは、量子情報科学専攻の人材育成は、産業界の牽引と統合にもっと注意を払うべきという。「例えば、金融学部の学生に量子情報の講義を受けてもらい、彼は将来、量子コンピュータを金融分野に応用していくでしょう」と。


 2022年1月のニュースで、教育・産業統合の方向への一歩が省レベルで進み始めました。広東省の「産学融合推進協会」が、学校と企業が共同で50の産学融合プロジェクトを構築するよう支援・指導することを発表したのです。このことは、政府の政策実行が、上から下まで深く織り込まれた性格を浮き彫りにしているといえます。


リクルート


 中国政府は、2050年までに中国を科学技術において、世界のトップになることを目標に、2008年に「千人計画(TTP)」を開始しました。TTPは、中国を代表する科学者を集める方法として、海外在住の学者や企業家が習得した技術を中国に持ち帰り、教師として、あるいは産業界のリーダーとして活躍できる技術チームを構築するなど、効果的な戦略として機能しました。


 2011年からは、若手や外国人研究者にも門戸を広げています。2020年にTTPが改称されます。米国の知的財産権に関する懸念から、「ハイエンド外国人専門家招聘計画」に変更され、量子科学者として知られる潘建偉氏など、7,000人以上の科学者が招聘されました。


 中国の学生が留学する場合、中国工商銀行から200万人民元(約3,600万円)の「イージーローン」という追加サポートがあります。


 Kania and Costelloは、2018年、中国の有力な量子物理学者の多くが、米国や国際的な一流機関で博士号を取得し研究を進めた後、中国の量子科学技術における重要人物となる様子を紹介しています。



※参考


◆中国教育現代化2035年版

http://en.moe.gov.cn/features/Specials_twoSessions/twosessions_Opinions/201903/t20190329_375938.html


◆教育現代化推進加速化実施計画(2018-2022)

http://www.gov.cn/zhengce/2019-02/23/content_5367988.htm


◆Origin Quantum Computing Technology Co., Ltd.,

https://www.originqc.com.cn/


◆合肥市師範小学校

https://www.originqc.com.cn/zh/new_detail.html?newId=189


◆Yuanyuan Quantum Learning System

https://picture.iczhiku.com/weixin/message1632310987500.html


◆CIQTEK

https://www.ciqtek.com/en/about


◆Diamond quantum computer for education

https://www.ciqtek.com/en/product/13


◆Double First Class

https://en.wikipedia.org/wiki/Double_First_Class_University_Plan


◆(USTC) offered quantum-related elective courses

https://www.chinanews.com.cn/gn/2021/07-05/9512788.shtml


◆Thousand Talents Plan (TTP)

https://media.nature.com/original/magazine-assets/d41586-018-00538-z/d41586-018-00538-z.pdf



(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report