コラム:最後の1マイルは最も過酷な道かもしれない


通信業界には、「最後の1マイル問題」と呼ばれているものがあります。通信会社は、都市から都市へ最新の光ファイバーケーブルを施設し、その後個々の場所に延長するのですが、この時、通信事業者の回線の端から、例えば自宅までのラストマイルは、古く施設された傷んだ同線ケーブルで構成されていたりします。この「最後の1マイル」が、インターネットサービスの最終的なパフォーマンスを制限してしまうのです。



私たちは多くの量子業界の人々と対話の機会をもってきました。そこで、POC(概念実証)を成功させて、量子的な優位性を獲得しようとする取り組みが増えていることを実感するようになりました。その中の一部としては、実装するアプリケーションは、量産することを前提として優位性に取り組んでいるのだろうと考えています。しかし、未だ道半ばで、実現に至った組織を知りません。いったい何がボトルネックになっているのでしょうか?



1つ、大きな違いがあることがわかりました。それは、現在の大規模な組織内にある古典的なシステムへの融合と、POCのデモを成功させることには基本的な違いがあることです。この違いは、量子力学の研究者や、中でも大企業で働いていない研究者にとって、理解することが難しいのではないかと思えます。大企業では、システム統合、セキュリティ、各種規制、人材育成、テスト、そしてスケジュール、倉庫の管理者やトラックの運転手、フロアトレーダーなどなど人的な要因を中心に、まだまだ多くの考慮事項、超えるべき壁が存在しています。人は変化に対して消極的です。業務担当者が新しいテクノロジーを受け入れるには、新たな知識を身に着けるだけで大変で、そのことだけでも大きな障害となっているのです。



企業にとって、今やITシステムは非常に複雑になっています。複数のベンダーが提供する様々なアプリケーションを統合・連携し、企業活動に必要な機能を可能なかぎりシームレスにユーザへと提供しています。そしてこのような環境の中で、新たに導入される量子アプリケーションの多くは、既存のシステムからデータを入力し、別のシステムで使用される出力を生成する必要があるわけです。



量子アプリケーションを単独で使用することはほとんどありません。10億ドル規模の企業(大企業)を運営するために、現状は古典的な業務システムに依存しているでしょう。その場合、何かの影響によってシステムが中断してしまったり、セキュリティ上の問題を引き起こすことは、莫大な代償を払うことになりかねません。そのため当然のことですが、CIOは新たなシステム変更に慎重です。主要なERPパッケージを使用したシステムのアップグレードを経験していれば、このような変更がどれほど大変なことなのか理解できるでしょう。



量子技術産業に関わり、エンドユーザと取引している皆さんは、この「最後の1マイル問題」を計画の一部として考慮することが賢明です。ユーザによる開発開始の遅れによって、収益化が思うように伸びないことも多いでしょう。そして、このような最終段階において、ユーザを支援するためのサポートプログラムの提供を検討していもよいかもしれません。



この問題に関して、量子産業界の幹部数名に見解を求めました。すると次のようなコメントが返ってきました。Zapata社は、この問題を認識しているので、Orquestraというワークフローを管理するプラットフォームを用意したのです。古典的なコンピューティングリソースとのインタフェースを用意することで、業務の敷居を下げる支援をしているのです。



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「多くの企業が、古典的な高性能コンピュータ(HPC)を単純に量子コンピュータに"置き換える"ことはできないことを知っています。その一方で、出来ないとは思っていない企業も少なくありません。HPCITスタックに、量子コンピュータを追加するのは、従来とは異なるアーキテクチャになることを意味します。強力なHPCリソースと交換することはできません。つまり量子コンピュータは何もないところでは動作しないのです。新しい量子リソースは、古典のリソースと組み合わせたハイブリッドモデルが必要なのです。また少なくても今後数年間は、登場する量子デバイスはソフトウェアプラットフォームや直接アクセスによりリモートで利用されるため、セキュリティ、データ管理、コンプライアンスの問題が悪化することになるでしょう。市場がハードウェアプロバイダに大きく依存している現在を考えると、組織にとって既存の古典的なITスタックとの統合を優先させる新しいアプローチが必要です。」と述べている。

Christopher Savoie氏, Zapata社のCEO
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また導入時において、エンドユーザを支援するサービスプログラムを実施している企業もあります。ここでは、D-Wave社を紹介します。



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「あらゆる新しいテクノロジーと同様に、導入には、チームや人材のリエンジニアリング、社内変革の手続き・管理、新たなアーキテクチャに対するワークフローの見直しなど、あらゆることを含む重要な採用曲線が存在します。量子テクノロジーは破壊的なテクノロジーであるため、このプロセスにおいて適切なガイドラインがとても重要になります。そのためD-Waveでは、企業が問題発見から本番導入に至るまで、量子コンピューティングのオンボードプログラムである「Launch」という対応プログラムを開発しました。このプログラムは4つのフェーズで構成されています。そして最後の2ですが、アプリケーションの価値を明確化し納得を得られたてから、フェーズを進め、本番稼働へと進めています。」

Mark Johnson氏(量子技術・システム製品担当副社長)
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今日の量子コンピューティング産業の収益は、ユーザーが使用方法を学び、技術を実験して、POC開発を行うことで成り立っています。しかしこれには限界があるでしょう。真にこの業界で収益を飛躍させるためには、エンドユーザーが量子アプリケーションを通常の業務用途に使用し、他の方法では得られない商業的・科学的な大きな利益を得るようにする必要があります。そのために、「最後の1マイル」を無視せず、有望な量子アプリケーションがPOCを成功させたなら、スムーズにそのまま業務適用できるようにする必要があります。




※参考


◆Last Mile Problem

https://en.wikipedia.org/wiki/Last_mile_(telecommunications)


◆Zapata社のOrquestra platform

https://www.zapatacomputing.com/orquestra-platform/


◆D-Wave社のLaunchプログラム

https://www.dwavesys.com/solutions-and-products/professional-services/



(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report