特集インタビュー:バンドン大学(インドネシア)、量子技術への取り組み


Interview with Quantum Business Magazine


発展目覚ましいインドネシアの量子コンピュータ。バンドン大学は、国内だけでなく、世界の科学技術の発展に貢献してきた歴史を持っています。日本との交流も盛んで、理化学研究所やJICA、そして多くの大学が交流をもっています。


 

Prof. Andriyan Bayu Suksmono, M.T, Ph.D.

 

- 20世紀の半ばより、バンドン大学と日本は関係を深めてきています。この間、印象的で思い出に残っている出来事はありますか?


Andriyan氏:1950年代から、インドネシアと日本の間では、専門家、研究者、学生、教授などの交流が盛んに行われてきました。また、日本の大学へ留学生を送り込んでおり、人材育成の面でも重要な関係を築いています。私もその一人でした。1999年に文部科学省の奨学金を得て、東京大学で博士号を取得しました。そこで学術・研究文化について多くのことを学んだのです。



- 学生の交流も盛んに行われています。日本の学生にはどんな印象を持っていますか?


Andriyan氏:現在も学生交換プログラムは実施されています。日本滞在中は日本人学生と一緒に過ごす時間が長くありました。彼らはとても親切で、外国人学生を助けてくれます。



- 量子テクノロジー学科を設立されましたが、その背景を教えてください。


Andriyan氏:量子テクノロジーはとても速く成長し、私たちの生活に大きな影響を与えることを実感しています。バンドン工科大学の電気工学・情報工学部(STEI)は、量子テクノロジーと密接しているので、この新しい技術を取り入れていく必要があり、QLAB-STEI(量子技術研究所)を設立することから始めました。幸運にも私は、物理学と電気工学の両方の教育を受けています。


博士課程に進学した当時、私は量子情報を研究したいという強い想いを持っていました。しかし、当時はそのような研究をテーマにしている教授はほとんどいませんでした。そのような中でも、複素数信号処理とニューラルネットワークの研究テーマを得た時は喜びました。複素数を使うという意味では、量子コンピュータに近いと考えたからです。近年、量子テクノロジーは急速に進化していて、勢いを得ています。


量子情報デバイスの中には、フォトニクスやエレクトロニクスの部品として入手できるものもありますし、量子コンピュータの中には、一般ユーザがアクセスできるものも増えています。今こそ、大学で量子テクノロジーの活動をはじめる時でしょう。



- 現在、量子研究室で行われている活動内容と、そこで関わっている人数を教えてください。


Andriyan氏:QLAB-STEIは、2021年に設立されたばかりです。量子技術に関する研究・開発・教育が主な活動内容です。今のところラボの準備初期段階でもあるので、設備も研究者の数も限られています。10名弱のメンバーと、学生が数名、そして海外の研究所やスタートアップを含めた企業など、さまざまな期間から集まった専門家がいます。STEIの若手教員の中には、量子技術の分野でまだ大学院に在籍している者もいますし。



- よろしければ、もう少し具体的な研究内容も教えていただけますか?


Andriyan氏:はい。まずは、量子アルゴリズムから始めています。これは量子コンピュータのハードウェアをクラウドで簡単に利用できるので取り掛かりやすいからです。そこで研究としては、シミュレーションと、実際の量子プロセッサーで実行確認の両方を行うことができます。学生には、量子機械学習を研究しているものと、トラフィックの最適化を研究している者がいます。


私は、アダマール行列を求める研究をしています。このテーマを選んだのは、さまざまな種類の科学的・工学的な応用が可能な、とても興味深い難問ですから。面白いのは、最初はとても簡単に見えるのに、実はそうではないところです。この問題では、-1と1の2値要素を持つ正方行列を、列または行の各組を直交するように並べなければなりません。答えの確認はとても簡単で、転置行列を掛けてやることで多項式時間内に行うことができます。しかし実は、直交行列を求めるために-1と1の要素を並べるのは非常に難しい。私たちの取り組みですが、最初はシミュレーテッド・アニーリング(SA)、次にシミュレーテッド・量子アニーリング(SQA)、そしてD-Waveを利用できるようになり、量子アニーリング(QA)のアルゴリズムを開発するなど、さまざまな種類のアルゴリズムを採用してきました。


M次行列(MxM)は、O(M^2)量子ビットを必要とするはずですが、現在のQAプロセッサでは2体相互作用(イジングハミルトン)の実装に限定されています。高次の相互作用のため、補助的に量子ビットを追加しなければならないので、量子アニーラーでの実装はO(M^3)量子ビットを必要とします。2019年には、D-Waveマシンを用いて、2次と4次のアダマール行列を求めることに成功した論文を発表しました[1]。その後、古典的な手法の一部を「量子化」し、量子アニーラーを実装することで、必要な量子ビット数をちょうどO(M^2)に減らすことができました。本年初頭に、私たちは、108次のアダマール行列を求めた結果を発表しました。付随して、そのうちの一つの手法で、次数92のアダマール行列を求めました。この行列は、1960年代にJPL(NASAジェット推進研究所)の研究者がようやく発見し、長年の懸案となっていたものです[2]。私たちは、汎用ゲート量子プロセッサーを用いることで、量子ビットの効率を、さらにO(M)まで高めることを期待しています。


最終的な目標は、668, 716, 892, ...次数のアダマール行列といった、未知の行列を発見することです。それらの行列は、既知のアルゴリズムを実装した古典的なコンピュータでは発見できません。量子コンピュータを使って発見することは、2019年のGoogleの量子優位性達成の次の段階である、実用的な量子優位のデモンストレーションのようなものになるでしょう。2019年のGoogle論文で言及されている、「創造的」アルゴリズムの一つになると考えています。



NB: links to our papers in Scientific Reports, in case they are needed

1) https://www.nature.com/articles/s41598-019-50473-w

2) https://www.nature.com/articles/s41598-021-03586-0



- 詳細に説明いただきありがとうございます。発展目覚ましいインドネシアにおいて、政府や産業界の量子技術への取り組みを教えてください。


Andriyan氏:現状では、量子技術はまだ学術研究機関の中で進んでいます。しかし、近い将来、状況は変わるでしょう。インドネシア政府は、社会に直接影響を与える新しい技術の出現に基本的にオープンです。国の研究機関の再編成も進んでおり、量子技術もその主要な課題の一つとして真剣に検討されるべき時です。もちろん、民間企業の中にもこの技術に興味を持つ人が出てくるでしょう。現在、私たちの業界はこの技術の発展を観察しています。彼らは、適切なタイミングでこの方向に進むでしょう。



- 量子技術に関して、政府や産業界に何を期待しますか?


Andriyan氏:量子技術の革新は急速に進んでいます。まずは近い将来、いくつかの技術が十分に成熟し、生産可能になることを期待しています。インドネシアでは、国家レベルで量子技術について真剣に考え、イニシアチブを取り始めることで、このような急速な発展を先取りすることができればと思っています。



- では世界全体ではいかがでしょうか?


Andriyan氏:この分野は非常に速く成長すると思います。量子アニーリングの量子ビットは2年ごとに倍増し、汎用ゲートは数年後に1,000量子ビットに達し、2030年には100万量子ビットを達成すると予測されています。コヒーレンス時間やエラー率といった量子ビットの品質は、新しい手法の開発によって著しく向上しています。シリコンベースの量子プロセッサーはその忠実度を高めていますし。一部の量子ベース暗号やポスト量子暗号(QKD:Quantum Key Distribution)は着実に改良され、量子コンピュータの進化により、従来の暗号がやがて崩壊するとの懸念から、広く利用されるようになるでしょう。また、新素材の発見、創薬、ハードの最適化など、量子コンピュータの応用競争も激しくなりそうです。



- 最後になりますが、量子技術はどのような未来をつくると考えますか?


Andriyan氏:量子技術、いわゆる第二次量子革命は、私たちの生活をかつてないほど大きく変貌させることが分かっています。現在の私たちが想像もつかないような新しい可能性の窓を開き、私たちの生活の質を向上させることを期待しています。



- 丁寧に応じてくださり、ありがとうございました。


Andriyan氏:ありがとうございました。



 

国立バンドン工科大学(ITB)は、1959年、インドネシアの西ジャワに設立された技術系高等教育機関です。「独立宣言のための闘争の精神に基づいたダイナミクスに満ちた雰囲気の中で生まれたITBは、先進的で威厳のある国の発展を最適化するためにここにいます。」と、HPで謳われています。


日本との交流も最初に説明がありますが、他に大学では、東北大学、東京工業大学、電機通信大学、大阪大学など10以上の提携校があり、活発な交流がおこなわれています。


◆国立バンドン工科大学

HP:https://www.itb.ac.id/


(編集部)

タグ: