コラム:2022年の展望 量子ハードウェア ⑦ 光量子 PsiQuantum

By David Shaw, 「Fact Based Insight」


この記事の原文は、「Fact Based Insight」のウェブサイトからで、許可を得て再掲載しています。原文はこちらから。


2022年の展望 量子ハードウェア ① 概要

2022年の展望 量子ハードウェア ② 超伝導 IBM

2022年の展望 量子ハードウェア ③ 超伝導 Google

2022年の展望 量子ハードウェア ④ 超伝導 USTC,Rigetti,D-WAVE etc...

2022年の展望 量子ハードウェア ⑤ イオントラップ IonQ

2022年の展望 量子ハードウェア ⑥ イオントラップ Quantinuum(Honeywell)、Universal Quantum、Oxford Ionics、etc..


★ フォトニクス(光子)が示すこれからのビジョン ★


【 PsiQuantum社が光を解き放つ 】


PsiQは、本年さらに4.5億ドル(約515億円)、これまでに6.65億ドル(約760億円)の資金を調達し、評価額は30億ドル(3,430億円)に達している。彼らのアプローチは、その具体的な内容含めステルス(目立たない)から登場した。


PsiQは現在、世界的な半導体メーカーGlobalFoundriesと協力関係を持ち、このパートナーシップは素晴らしい成功を示し始めている。 単一光子源と単一光子検出技術(Niobium Nitride SNSPD)用のツール導入が重要なステップとなった。ニューヨーク州北部とドイツのドレスデンにあるGF社の最新300mm生産拠点では、インラインテスト(4kクライオスタット・ベース)と共に、製造ラインに組み込まれている。[40]



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-Tier-1 fabs 
その決定的なメリットは、トップクラスの設備が生み出すナノ形態の精度向上だ。導波路によるラインエッジの粗さは、光子の損失につながり、検出器の効率を低下させる。PsiQは、初規模な場から最新鋭の設備に移行することで、パターニングの品質が5倍向上し、デバイスの性能が大幅に向上したと報告した(例として、単一光子検出器の効率は97%@2Kから、99.7%@2Kに向上した)。重要な点は、数千という検出器を、システムに必要な光源、導波路、そしてその他の光学部品と共に、1枚のウエハー上に作製できることである。[40]

PsiQは優れたバランス感覚を持っている。彼らは集積デバイスの主要コンポーネントが、トップメーカーの能力を活用することで改善できることを実証したのだ。同時に研究開発ではなく、従来のチップの大量生産を主な事業とする工場にアクセスできないような、エキゾチックな材料や超最先端の製造工程を避けてきた。
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CEOのJeremy O’Brien氏は「量子プロセスを拡張するのではなく、拡張可能なプロセスを量子化したのです」と総括する。


Fact Based Insightでは、PsiQの理論的なブレークスルーは、さらに革新的ではるか先に到達する可能性があると見ている。彼らの量子ビットは単一光子だ。自らのアーキテクチャで、フォールトトレラントな計算をサポートする方法を大幅に単純化した、「融合ベースの量子コンピューティング」と呼ばれるものを導入している。[41]



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光子経路に基づくデュアルレール光子量子ビット |0> および |1> 量子ビットの状態は、光子が通った経路(上部か下部か、またはその両方)に符号化される。

この方式では、従来の回路モデルである量子計算の2Qゲートは実用的ではない。代わりに、測定に基づく量子コンピューティングと呼ばれている(同等の方式がたびたび提案されている)。

MBQCでは、大きくもつれた'cluster state'(クラスター状態:複数キュービットの高度に絡み合った状態の一種)を使用する。必要なアルゴリズムは、クラスター状態に対する一連の測定を通じ実装される。この手法の難しい課題は、充分に大きなクラスター状態の生成が困難であることだった。

FBQC(fusion-based quantum computing)は、小さな標準的なもつれ状態を入力として受け取る。その時にリソースの状態は、標準的な光技術(ベル測定)を用い、空中で結合(フュージョン)される。これにより、フォールトトレラントなクラスター状態のパワーを、効果的に再現することができるが、単一の光子がうまく移動しなければならない光コンポーネントの数が、低く一定に保たれている必要がある。[41]

FBQCは、量子コンピューティングにおいて何が重要なのか、私たちの直感に挑戦している。従来の回路ベースのアプローチでは、増加するゲートによって、コヒーレンスを保護する必要がある、という概念に注目してきた。そのため量子アルゴリズムが使用する相関が最終的に量子ビットの状態に蓄積されることになる。FBQCでは個々の量子ビット/光子は、生成後すぐに測定され破壊される。[42,43]
FBQCの優れた点は、複数の潜在的な誤り(光子の損失、融合不良など)が、統一的に誤り訂正の一部になり、自然に解決されることだ。これは'surface code'のようなアプローチの中心となるトポロジーの考えと密接に関係している。FBQCにおける複数の融合ラウンドは、'surface code'の誤り訂正サイクルに似ていると言うことができる。どちらも二次元の構造で、時間ステップを追加して計算を進める「3次元」フォールトトレラント・チャネルを作成する。フォトニック・アーキテクチャは容易く製造できるため、FBQCアプローチの理論的な柔軟性により、うまく融合することが期待されている。
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PsiQアプローチの潜在的な弱点はなんだろうか?未だデバイスが動作しているところを見たこともない。他の技術と同様に、実際に体験することで、具体的な課題を指摘することが可能になるだろう。彼らの量子ビットは他のプラットフォームと変わらず究極的にはアナログの物体なので、製造公差や校正の課題にどこかで直面する。パスコード化された光子量子ビットは位相に対する感度として現れる可能性があるだろう。クロストーク(信号の漏洩)は、他のプラットフォームに比べてフォトニクスでは強みであると考えられている。しかしだ、PsiQが想定しているような規模と部品密度で、単一光子を扱ったことのある人は他にいない。さらに彼らは、そのアプローチの基礎となる、最初のもつれたリソース状態を生成するために使用している技術についても多くを語っていない。その生成には多くのスイッチングと多重化による複雑さが必要になると思われる。



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- Classical control
PsiQのアプローチの強みは何か。フォトニクスの製造と、制御装置の製造の相対的なスケールがうまく機能することだろう。300mmのウェハに約100万個の量子ビットが、同じサイズ(別の最適化)のウェハに約1兆個のトランジスタが収まるのだから。このようなチップは個々に製造されて、ダイシングされた後、ラインプロセスにおいてフリップチップ接合する。その結果、とても扱いやすい制御電子/量子ビット比のパッケージが完成する。[40]

さらに、FBQCアーキテクチャの特筆すべきは、基本的な制御処理を、物理的な光クロックサイクルの中で行う必要がなく、複数の融合サイクルが完了した後に、従来の計算を「キャッチアップ」できることだ。このことは、量子的な利点を得るために必要とされる'magic state'の生成にも及んでいる(ほとんどのFTQC方式でも同じ)。[41]
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Fact Based Insightの見解を。古典的な制御ロジックにも着目すべき点が残されているだろう。PsiQの検出器、つまりフォトニクスチップ全体は、クライオスタット(低温に保つ装置)の必要な温度で動作させる必要がある。2Kは20mKの100倍の温度であり、超伝導量子ビットで使用される温度よりもはるかに扱いやすい温度だ。それでも制御ロジックの多くで、この低温の環境が必要にならざる負えない。このようなクライオCMOS技術は、それ自体がまだ新しい分野である。他の多くの量子ハードウェアプレーヤーも同じ課題に直面しているが、この10年間の半ばにはシステムを構築すると言っているのはPsiQなのだ。この問題でポイントを上げなければいけないのはPsiQである。


古典的な制御ロジック、特に'magic state'の生成ロジックが、大きなボトルネックになるのではないか。光子の飛行時間が速ければ、それが論理的なサイクルタイムにつながると考えるのは危険だ。その時、古典的な処理の速度が支配的である可能性が高いからである。



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- PsiQ roadmap
1MQ providing 100-300 logical qubits, within 5-8 years.  
Error correction via FBQC.
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長期的に彼らは、SNSPD(超伝導ナノワイヤ単一光子検出器)技術から脱却して、常温で動作するデバイスを作りたいと考えている[40]。新しい極低温冷却を必要としないハードウェア技術(最新のQKDソリューションで使われているものなど)と、より高度なエラーを許容するための誤り訂正プロトコルを改善していくと。




References



[40] PsiQuantum, Silicon Photonic Quantum Computing – PsiQuantum at 2021 APS March Meeting. 2021 [Online]. Available: https://www.youtube.com/watch?v=WQRmSOKgMPA. [Accessed: 12-Dec-2021]


[41] S. Bartolucci et al., “Fusion-based quantum computation,” arXiv:2101.09310 [quant-ph], Jan. 2021 [Online]. Available: http://arxiv.org/abs/2101.09310. [Accessed: 14-Nov-2021]


[42] “24th Annual Conference on Quantum Information Processing,” 24th Annual Conference on Quantum Information Processing. [Online]. Available: https://www.mcqst.de/qip2021/. [Accessed: 12-Dec-2021]


[43] PsiQuantum, Architectures for fault tolerant quantum computing | QIP2021 Tutorial | Naomi Nickerson. 2021 [Online]. Available: https://www.youtube.com/watch?v=BSZsH4dBBbc. [Accessed: 12-Dec-2021]



⑧に続く


(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report



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