コラム:2022年の展望 量子ハードウェア ⑤ イオントラップ IonQ

By David Shaw, 「Fact Based Insight」


この記事の原文は、「Fact Based Insight」のウェブサイトからで、許可を得て再掲載しています。原文はこちらから。


2022年の展望 量子ハードウェア ① 概要

2022年の展望 量子ハードウェア ② 超伝導 IBM

2022年の展望 量子ハードウェア ③ 超伝導 Google

2022年の展望 量子ハードウェア ④ 超伝導 USTC,Rigetti,D-WAVE etc...



★イオントラップが論理量子ビットをリード★


【 IonQは、思春期の輝きを放っている 】


イオントラップ型も2021年は多くの見出しを飾った。IonQは、20億ドルのSPAC上場により、文字通りNYSE(ニューヨーク証券取引所)の鐘を鳴らした。


同社は、15量子ビットのデバイスを1つの論理ビットにする(Bacon-Shor-13 誤り訂正符号を使用)フォールトトレラント制御をデモンストレーションした。1量子ゲートのフルセットが実証され、magic states(量子計算が優れた特性を持った状態)も作り出された。これは業界にとってのマイルストーンだが、達成された論理的な忠実度は「まぁまぁ」だ(論理SPAM:99.4%、論理1Q忠実度:99.7%)[24]。それにしても、誤り訂正は未だ議論の的でしかないという人もいるかもしれないが、その心配は実際に機能しているのを見てしまうと、そろそろ終わりにしていいのかもしれない。


IonQはまた、独自のベンチマークにおいても成功を収めている。2021年にQED-C(米国量子経済開発コンソーシアム)は、一般的な基礎となる量子アルゴリズムに関して、全てをカバーする一連の性能ベンチマークを発表した。その結果には、IonQの11量子ビットシステム(クラウドアクセス可能)と、次世代ハードウェアが含まれていた。最新のハードウェアは、飛躍的な前進があり、全体として、IBM、Honeywell、Rigettiなど他のデバイスを凌駕している。QED-Cが示したカバー率の高い指標により、イオントラップ型が提供する量子ビットの、強化された接続性について利点を示すことができる。



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-QED-C Benchmark Suite
多くの議論されている量子アルゴリズムを、幅広く取り上げ、異なる量子ビットのスケール、および回路の深さを評価する。結果として可視化される画像はとても美しく、有益なものとなっている。QVとのリンクを直感的にサポートし、単純な数値判断に留まらず、自然な洞察を提供している。[25]
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とは言え、IonQの新ハードウェアもまだまだ物足りないものだ。昨年の発表では32Qの達成を伝えていたが、実際は21Qでの動作だったようだ。QVの測定値はまだ公表されていないが、Fact Based Insightの推定では、1024QVで動作していたようで、期待する4M QVには遠く及ばない。理由としては、2Qゲートの忠実度で、システムが持つポテンシャルを引き出すためのチューニングに後れを取っているという。



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-IonQ roadmap
22AQ 2021, 29AQ 2023, 64AQ 2025, 256AQ 2026, 384AQ 2027, 1024AQ 2028. Error correction – 16:1 2025, 32:1 2027.

-Algorithmic qubits (AQ)
IonQは指標を、厳しく、計算に利用できる「実質的に完全な」量子ビットの数を示すために定義した(ただし、利用できる論理ゲートの深さは含まれていない点に注意)。誤り訂正エンコーディングがない場合、AQ=log2(QV)となる。
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誤り訂正に対して柔軟なアプローチを取ることが戦略の中心にある。高性能で高いオーバーヘッドのあるsurface codeの実装ではなく、より小さなコードをどう実用的に使用するか、を中期的に計画している。これによりオーバーヘッド(16:1)を抑えた忠実度(99.99%)の実現が可能となる。[22]



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-The superconducting gauntlet
IBM99.91±0.014%、QuTechの99.93±0.24%MIT99.87±0.23%の超伝導量子ビットが使用する2Qゲートの忠実度は、イオントラップ型のコミュニティにとって大きな挑戦である。その物語にとって重要な部分は、イオントラップ型が著しく高い2Qゲート忠実度を提供することだ。しかし現在の結果は、レーザー駆動ゲート[26; 27]では99.92 ± 0.04%、near-field MW駆動ゲート[28]では99.91 ± 0.09%にすぎない。そしてこれらの性能は、2Qのラボで実証されているだけで、真のマルチ量子ビットデバイスでこれに近いものを達成した例はない。IBMのシステムは忠実度におけるデッドヒートに優位であり、既に生産製造されている。超伝導量子ビットのゲート速度も著しく速いのだ。

イオントラップ型には切り札もある。
強化された量子ビット間の接続は、潜在的にNISQアプリケーションに関連している可能性がある(超伝導量子ビットは通常、最も近い隣接相互作用に制限される)。オーバーヘッドを低減した革新的な誤り訂正符号が実装されるならば、長期的に重要な利点となるかもしれない。しかし超伝導のゲート忠実度のばらつきには、しばしば強調される別の問題があることも見て取れる。つまりイオンや原子をベースにした量子ビットにはない、必然的なばらつきに、量子ビットが苦しんでいるのだ。
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先日のQ2B 2021においてIonQは、技術ロードマップの新たな詳細を発表した。次世代プロセッサは、現在イオンとして使用されているイッテルビウムから、バリウムを使用することになると。Fact Based Insightでは、即時的な性能の飛躍は期待していないが、IonQの技術的なビジョンは、とても健全であると考えている。8億ドルという資金を持つ価値は、その資金をどう使うのかについて、十分に良いアイデアを持っているかどうかだ。IonQは量子技術に沸く現状の、商業的・科学的なリーダーシップを発揮するに値するようである。



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-The Goldilocks qubit
133Baは天然には存在していない。人口同位体だが、イオントラップ型の量子ビットとして特別に合成され有望視されている。各スピンが1/2であるため長寿命な量子ビットとして使用することができる。またイオンの構造は、準安定状態であり、光波長で遷移することも重要なポイントになっている。光ファイバーや集積型のフォトニックデバイスでの扱いはとても容易なものだ。この遷移は、超微細な量子ビットをよりたやすく操作可能にし、同じ系において光学量子ビットを形成するための基盤として利用することができる。さらにトラップ間のフォトニック・インターコネクトを作る作業を単純化することも約束されている[29]。しかし、他のイオン種に比べて、バリウムイオンを用いた実験は、まだ比較的早い段階にある。IonQがすぐにバリウム同位体に切り替えるのかはわからない。それでもFact Based Insightでは、最終的にはバリウムイオンに移行するだろうと考えている。
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同社は、モジュール性を重要視している。チーフサイエンティストのChris Monroe氏は、1つの拡張トラップ内でイオン・チェーンを移動・結合して、数百量子ビットのモジュールを作成することができること、さらには、集積光学系はスケーリングのための重要な要件であるが、これは物理学的な課題ではなく、工学的な課題である、と指摘している。



References


[24] L. Egan et al., “Fault-tolerant control of an error-corrected qubit,” Nature, pp. 1–6, Oct. 2021, doi: 10.1038/s41586-021-03928-y. [Online]. Available: https://www.nature.com/articles/s41586-021-03928-y. [Accessed: 09-Oct-2021]


[25] T. Lubinski et al., “Application-Oriented Performance Benchmarks for Quantum Computing,” arXiv:2110.03137 [quant-ph], Oct. 2021 [Online]. Available: http://arxiv.org/abs/2110.03137. [Accessed: 12-Dec-2021]


[26] J. P. Gaebler et al., “High-Fidelity Universal Gate Set for $^9$Be$^+$ Ion Qubits,” Phys. Rev. Lett., vol. 117, no. 6, p. 060505, Aug. 2016, doi: 10.1103/PhysRevLett.117.060505. [Online]. Available: http://arxiv.org/abs/1604.00032. [Accessed: 22-Jun-2020]


[27] C. J. Ballance, T. P. Harty, N. M. Linke, M. A. Sepiol, and D. M. Lucas, “High-fidelity quantum logic gates using trapped-ion hyperfine qubits,” Phys. Rev. Lett., vol. 117, no. 6, p. 060504, Aug. 2016, doi: 10.1103/PhysRevLett.117.060504. [Online]. Available: http://arxiv.org/abs/1512.04600. [Accessed: 22-Jun-2020]


[28] R. Srinivas et al., “High-fidelity laser-free universal control of two trapped ion qubits,” Nature, vol. 597, no. 7875, pp. 209–213, Sep. 2021, doi: 10.1038/s41586-021-03809-4. [Online]. Available: http://arxiv.org/abs/2102.12533. [Accessed: 12-Nov-2021]


[29] D. Hucul, J. E. Christensen, E. R. Hudson, and W. C. Campbell, “Spectroscopy of a synthetic trapped ion qubit,” Phys. Rev. Lett., vol. 119, no. 10, p. 100501, Sep. 2017, doi: 10.1103/PhysRevLett.119.100501. [Online]. Available: http://arxiv.org/abs/1705.09736. [Accessed: 11-Dec-2021]


[30] J. E. Christensen, D. Hucul, W. C. Campbell, and E. R. Hudson, “High fidelity manipulation of a qubit built from a synthetic nucleus,” arXiv:1907.13331 [physics, physics:quant-ph], Jul. 2019 [Online]. Available: http://arxiv.org/abs/1907.13331. [Accessed: 11-Dec-2021]




⑥に続く



(翻訳:Hideki Hayashi)

提供:Quantum Computing Report


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